特集 知的障害児者への作業療法—支援スタイルの現在と未来
コラム:知的障害児者の豊かな世界を共有すること—作業療法士が創るこれからの支援
松本 政悦
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1よこはま港南地域療育センター
pp.1259
発行日 2021年10月15日
Published Date 2021/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202732
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知的障害児者の発達のスピードや情報処理の効率は,定型発達児者と比較してはるかに低い.彼らはそもそも効率中心の経済社会には適応しにくい.重度知的障害児者が価値のない存在であると誤解されてしまう原因はここにある.知的障害が軽度な場合であっても,就学・進学・就職において,定型発達児者と同じスタイルで参加することは難しいのが現状である.
しかし彼らとかかわってみると,私たちが見過ごしがちな豊かな世界を感じながら,ゆったりとした時間を生きている,と気づかされる.たとえば重度重複障害の子どもが散歩中に頰に風を受け,その心地よさに満面の笑みを浮かべたとき,私たちが慣れすぎて注意すら向けない場面の中にも貴重な瞬間がたくさんあることを教えてくれる.あるいは障害児者の家族が,社会的弱者を支援する職業に就くケースが多いのも,彼らから効率や生産性以外の価値観を教わったため,といえるかもしれない.しかし彼らの「豊かさ」は,目で見ることが難しいし,数値化することもできない.このように考えると知的障害児者への支援は「停滞している彼らの機能を,私たちの平均値に近づけ,適応力を高めること」のみでは不十分ではないか,と思う.
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