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死者救済の儀礼
2019年の春に台湾の古都,台南を旅行した際,民権路にある道教の廟「東岳殿」を訪れました(図).今も伝統的な旧字体の漢字(繁体字)を用いる台湾では,東岳の「岳」の文字は「嶽」と書いてあります.「東嶽殿」.ここには道教の地獄の神様「東岳(嶽)大帝」が祀られています.東岳大帝を祀る廟はここ以外にも台湾各地にあり,また中国大陸や東アジアにも数多くあって,「東岳殿」という名称以外に「東岳廟」と呼ばれている所も少なくありません.中国の伝統的な世界観では,中国の東・西・南・北・中央五方には,それぞれの方位を象徴する神聖な山岳があると考えられてきました.そして,東岳は今の山東省にある「泰山」,西岳は陝西省の「華山」,南岳は湖南省の「衡山(あるいは安徽省の霍山)」,北岳は山西省の「恒山」(あるいは河北省の「恒山」),中岳は河南省の「嵩山」がそれであるとされ,信仰されてきました.
ですから「東岳大帝」は,これら五岳のうちの東岳泰山にいて東方を司る神,ということになります.世界史で覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが,「泰山」は秦の始皇帝をはじめとして各時代の皇帝が天神地祇を祀る「封禅の儀」を行った山です.封禅は盛大な国家祭祀ですが,民間では,特に地祇(大地山川の神)との関連から,この山には人々が死後に赴く地下の「冥界」があると考えられてきました.そして,後漢(25-220)の明帝(在位:57-75)のころに中国に仏教が入ってくると,この「冥界」がインドの世界観における「地獄」のイメージと結びつき,次第に泰山には地獄があると考えられるようになってくるのです.一方,中国では後漢の末に道教が興りますが,道教もまた仏教の「地獄」説を取り込み,やがて泰山地獄を司る主神に「東岳大帝」という名称を与えます.道教の概要については,また後ほどお話ししましょう.
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