社会の動向
民衆の幸福とは何か?—ある中共視察談に寄せて
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.26-27
発行日 1958年11月1日
Published Date 1958/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201568
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「中共には蠅がいなくなつた」ということが,全く驚くべきことのように話題になる.戦前の中国を知る者にとつては考えられないことであるからだ.中国では西瓜が赤くない.蠅が一ぱいたかつて真黒である.そんな常識から考えると,いまの中共で蠅が見られないということはどんなに驚くべきことであるかということが分るのである.
もちろん,これには反駁もあろう.なるほど真黒に蠅がたかつて,下の地色が変つてしまうようなことはなくなつたにしても,蠅がいないというのはどうだろうか.眉につばでもつけて聞かねばならない誇張じやないか.そんなことは考えられない.東京にだつてずい分蝿がいる.ましてもつと文化や衛生施設までのもくれている中国においてそんなことがあり得るか.また中国に行つた人たちが,たまたま蝿のいないよいところだけ見せられて来て,中国には蠅はいないという錯覚におちいつているのではないか等々,それぞれにいろいろの反論はあろう.だが,実際に中国に行つた人たちは,行く前の認識を改めて,起ち上る中国のよい面を感心して見て来ているようである.たしかに蝿はいない.昔の中国の考え方で,今の中国を評することはできない——そのように強調するようである.最近中共を視察して帰られた本誌にもおなじみの木下正一博士の御土産話を聞いても,たしかに中国には蝿がいなくなつたようだ.誇張ではない.
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