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Key Questions
Q1:発達障害とはどのような障害か?
Q2:発達障害の診断はどう行われているか?
Q3:成人の発達障害はどう分類され,どのように対応すればよいか?
はじめに
国内で,発達障害が公に知られるようになったのは,2005年(平成17年)に「発達障害者支援法」が施行されてからである.それまでも発達障害児・者は存在していたが,発達障害という言葉がなかったために,その存在を社会的に認められず,つらい思いをしていたと考えられている.この法律の中でICD-10(International Classification of Diseases第10版)に基づく発達障害の定義が記述されている.
児童青年精神科の医療現場では,平成年代に入り,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD),注意欠如・多動症(attention deficit hyperactive disorders: ADHD)等と診断される子どもが増えていた.小学校の就学相談では,「知的には問題ないが,学校生活を送るのに,“落ち着きがない”,“集団行動が苦手である”,“友人関係がつくれない”,“先生の指示に従えない”等の悩みをもつ児童が増えていた.1998年(平成10年)ごろになり,NHKがスペシャル番組で小学校の低学年の“学級崩壊”を取り上げたのが契機で,“発達障害”が社会的に話題になりはじめた.発達障害が学級崩壊を引き起こすという番組の内容であったが,「発達障害児への対応がうまくいかないと,他児も騒ぎ出してしまい,教室内が騒然とする」というのが本当のところであった.
法律が施行されて2年後,教育では特別支援教育が正式に始まり,「個に応じた教育」が実践されはじめた.2005年ごろに小学校低学年だった学童は現在20代になっている.発達障害そのものは,特性とみられることもあり,一生を通じて存在すると考えてもよい.置かれる環境や対応の仕方によって落ち着く場合もあるし,社会的不適応をきたすこともある.小学校を卒業しても,中学や高校に進学しても,やはり困難を抱えているが,教員,友人,家族らの対応で様子は大きく変わってくる.中学校では,必要に応じて特別支援教育が受けられるようになってきているが,高校では通級が導入されたばかりで,サポート校等が対応している部分もある.大学入学のためのセンター試験では,提出した医師の診断書が認められれば,発達障害者に特別な答案,受験環境,試験時間等への配慮がなされる.センター試験で認められた配慮は実際の大学入試でも認められる.発達障害者は大学に入学後も履修届の提出で苦労するし,理科系ではグループで行う実習,文科系ではゼミでのプレゼンテーション等が苦手である.最も苦手なのは就職の面接であり,「試験官から何を求められているわからないので,見当違いの応答をしてしまう」と訴える.“相手の気持ちを理解できない”,“自分の気持ちをうまく伝えられない”という課題が露呈してしまうと思われる.
高校を卒業して就労する際には,発達障害の特性がわかっていれば,特別な配慮をされた就労が用意されることが多い.知的障害療育手帳や精神保健福祉手帳を所持している場合,あるいは証明するものがあれば,ハローワークで特別枠就労の相談にのってくれる.たとえば,特別支援学校高等部では,職業科コースが用意されており,就学中に職業実習をいくつか行い,卒業後にその実習先に就労する例も増えている.このような場合は就労先でも特別な配慮が可能である.義務教育年齢で,発達障害の課題に気づかず過ごした場合は,社会に出てから苦労する場合も多い.学力が優秀な場合は,特に気づくことなく,一流の大学,大学院等に進学して,一流会社に就職してから職場で適応できずに“自分は周囲とどうも違う”と気づいて,「自分は発達障害ではないか?」と臨床場面に姿を現すこともある.大学にもよるが,受験者の減少もあり,以前に比べれば発達障害者への配慮が行われている場合もある.
一方で,就労現場では発達障害を知られずに就労した場合,合理的配慮は始まったばかりであり,まだまだ対応が不十分な会社もみられる.時には,“挨拶ができない”,“職場の雰囲気を乱す”等の烙印を押されている.職場が異動になると落ち着くし,才能を発揮する場合もあるが,会社が発達障害の存在を知らなかったり,対応が不慣れであると,退職を求められる場合もある.現在,当事者が30代以上の場合は,生育過程で発達障害という概念が知られていなかったため,社会に適応できず,“ひきこもり”になっている場合もある.この場合,養育者も“しつけのできない親”とされており,親子で“ひきこもり”状態になっている例もある.発達障害の高齢者については,まだ実情把握が不十分な面もある.
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