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作業療法とスポーツのかかわりの変遷
紀元前,ヒポクラテスは,運動療法は精神機能の改善に効果があると述べている.戦後,精神科病院が多く設立され,1960年代には入院患者に対して運動会等が行われる等,わが国ではOTが誕生する前から精神科病院で入院患者を対象に,卓球,ソフトボール,バレーボール等が行われていた.1966年(昭和41年)にOTが誕生し,1975年(昭和50年)に精神科作業療法診療報酬制度が点数化され,現在ではほとんどの精神科病院で精神科作業療法が行われ,また多くの精神科デイケアでOTが活躍している.1980年代からは,各都道府県および地区単位でのスポーツ大会が盛んに行われるようになった.この時代の大会は,技術を競うことよりもレクリエーションや作業療法としての治療的要素,親睦の意味が大きかった.現在は,精神医療が入院治療中心から地域精神医療に移行していくとともに,平均在院日数が減少し,入院患者のスポーツ大会は縮小している.一方で,地域で生活している精神障害者の増加に伴い地域の精神障害者スポーツ活動が盛んになってきており,都道府県レベルの大会にとどまらず,ブロック大会,全国大会,世界大会と広がってきている.また,地域に精神障害者スポーツクラブが誕生し,OTがかかわるようになった.
2011年(平成23年)に「スポーツ基本法」が施行されたことに伴い,障害者スポーツに関する施策を,福祉の観点に加え,スポーツ振興の観点からも一層推進していく必要性が高まり,障害者スポーツに関する主な事業が2014年度(平成26年度)に厚生労働省から文部科学省に移管された.スポーツ基本法前文には,“スポーツは,世界共通の人類の文化である.(中略)個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動であり(中略)心身ともに健康で文化的な生活を営む上で不可欠”と記されている.また,障害者スポーツについては,“障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう,障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない”としている.運動・スポーツは,精神科の治療,作業療法・デイケアの活動の一つとして行われてきた.最近では,体力面等の身体面の効果よりも,精神症状の改善,認知機能の改善,対人関係の改善についての報告が多く,さらに,就労等の社会参加,QOLの向上,自己効力感の向上,レジリエンスの向上等,治療から予防までさまざまな実践報告がある.
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