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Key Questions
Q1:OT実践の10年後の姿とは?
Q2:OT教育の現状と世界的変化とは?
Q3:OTの可能性を広げる教育とは?
はじめに
本特集が10年後に活躍するOTの養成のあり方に関して議論するものと考えると,そのときの社会を予測し,その時代に求められる人材を考えることが必要であろう.近年出されている厚生労働省の公表データをはじめ,雑誌や書籍,テレビ番組で紹介される未来の社会に関する予測に,あまり明るいものはなく,悲観的な見方が多いことから,危機感を感じる人も少なくない.社会構造は,少子高齢化が進み,人口構造が大きく変化し(子どもや労働人口の減少等),社会保障にかかわる経費の増大することから医療費等の抑制が進むとする見方が多い.
その流れと同様に,OT養成校における受験者および入学者・卒業生数が減少し,就学に課題を抱える学生が増加する等,負の側面を強調する話題が多い.厚生労働省の医療従事者の需給に関する検討会(理学療法士・作業療法士分科会)の資料では,PT,OTの現状を分析し,現時点での予測として2040年ごろのPT,OTの需給見込みは,供給数が需要数の約1.5倍に達し供給過多を予測するとともに,養成校数の増加に反して国家試験の合格率や質の低下に関する懸念の声も上げられていることを指摘している1,2).
しかし,筆者は少し楽観的にみている.上記の予測や社会の負の印象を抱くムードはメディアによるあおりに感じることや,OTの需要見込みでも,現在の社会保障制度に守られた世界で活躍するOTの話と捉えると,OTの資質(教育水準や実践能力)が社会の要請に呼応して変化できれば,新たな市場を開拓・拡大できる人材が育ち,上記の不安も払拭されると考えている.過去にもリハ職の過剰供給のような表現もあったが,高齢者への対応や介護保険の導入等もあり,過去50年間のOT増加率は10年ごとに3倍以上のペースで拡大してきた.こうした数の拡大と実践領域の拡大は国際社会でも同様の傾向がみられる.この拡大や新興領域で活躍するOTは,社会の変化に呼応した柔軟なコンピテンシーによるところが大きい.社会の豊かさを物質的あるいは量的な拡大にみる時代から,個々人の生き方・暮らし方,生活習慣等,質を求める時代に変化した今,OTは社会の要請に合致したサービスを提供できる可能性を秘めた専門職であると自負している.
筆者が臨床家としてスタートした30数年前には,OTの目標を心身機能の改善に置くことが全盛期でもあったことや作業療法の曖昧さから,機能的回復に焦点を当ていた.ハンドセラピーやボバース法等の運動療法,感覚統合等,当時のリハの最前線にあったリハ技術の習得に力を注いでいた.縁あってその後養成校の教員となり,20数年前には米国留学を経験し,同国の作業療法の現場を見学したときには大きな衝撃を受けた.作業療法を「ビジネス」と表現する作業療法サービスの会社の管理者や,大学院の授業で地域サービスの市場調査に基づく新たな提案,実践の場でCo-Therapyと称したOT,PT,STによる同時・複数回の介入(1日3回,食事の自立支援のための協業アプローチ)の姿など,自分の既成概念にはない教育や実践がそこにはあり,価値観の転換を迫られる思いがした.あるとき,若手のCOTA(certified occupational therapy assistant,認定OT助手)の機能訓練のみの介入に「なぜ作業を用いた支援を行わないのか」を尋ねると,「作業は目的であって手段に固執することはない.結果的に本人が望む生活や“作業”に近づくなら合理的な方法を選択する」との答えが返ってきた.当時,自分自身の作業に対する曖昧な思いや,“OTは作業を用いるべき”とする形式的な使命感もあり,新鮮な考え方に思いを打ち砕かれた.
上記の経験もあり,既成概念にとらわれることなく,よいものや考え方は取り入れ,対象者の利益を最大にできる柔軟な思考の大切さをOT教育にも取り入れるべきと考えるようになった.特に海外の作業療法に触れることが自分にとって視野と対象者へのかかわりの可能性を広げるきっかけになったこともあり,本稿ではそうした経験を基に世界の作業療法の動きや考え方を取り入れた教育について,10年後に活躍できるOT像をイメージし,述べたい.
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