わたしの大切な作業・第9回
下ごしらえの喜び
梨木 香歩
pp.1
発行日 2019年1月15日
Published Date 2019/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001201557
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黙々と作業に没頭する、ということなら、やはり食べるために行う、野や山(ときに海や川)で採った食材の下ごしらえが一番だろうか。あらかじめ下処理してあるスーパーのものと違い、自然のものをいただくときには、必ず面倒で、ときにゾッとするような、大地そのものとの交渉が必要だ。
秋はキノコの季節。山にいるときはほとんど毎日、小キノコ狩りか大キノコ狩りだ。小キノコ狩りというのは、食事の前に庭を一回りしてキノボリイグチやヤマイグチをスープや味噌汁に使う分だけ採ってくる、五分ほどで終わるもの。大キノコ狩りは、キノコ採り名人とともに山に入り、半日以上かけてそれなりの収穫を得て帰ってくる一大イベント。シイタケタイプの、乾いたキノコなら、キノコ用のブラシかキッチンペーパーを使い、埃や土を払ってそのまま料理できるが、イグチの仲間やヌメリ○○タイプの粘りのあるキノコだと、どうしても洗わずにはいられない。最初に大雑把に葉っぱや土を取った後、流水で細いカラマツの葉など、ヌメリに絡まっているものを流す。それから二つに裂き、用意してあった塩水の入ったボールに入れていく。もし虫が入っていたら、これで苦しがって出てくる。香茸などだったら、まず必ず虫が入っているので、さらに細かく裂いて、虫が出てきやすくした上、重ねて数回、塩水を替えて虫を出す。ホンシメジも虫が付くので、これをする。ヌメリスギタケモドキは、虫が付くことはあまりないけれど、とりあえず煮沸して、洗う。ホコリタケの幼菌なら、ブラシで払うだけで十分だ。下ごしらえだけしておいて、すぐに使わないときは冷凍する。
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