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はじめに
筆者は現在,発達障害がある子どもをもつ保護者たちと共に立ち上げた小さな非営利団体「なごみの杜」を活動拠点として,若いOTや指導員,社会福祉士,ベテラン保育士と共に,幼児期から成人期まで,おのおののライフステージに寄り添う支援のほか,保護者支援の一環としての保護者会や学習会,ペアレント・トレーニング,また地域の事業所職員やセラピスト,保育士等を対象とした学習会,地域啓発活動,保育所・幼稚園・学校との連携活動等,当事者や地域のニーズを汲み取り,私たちにできることを模索しながら活動を行っている.
筆者は日本での初期の作業療法教育を受けた一人であるが,今回のテーマである「チームワーク・連携」はその時代から日本医療界の大きな課題のひとつであった.日本人の文化的特性として,よく横並び意識や協調性に長けているといわれるが,近代「医療」のみならず「教育」も,そのルーツにどうしても封建的組織運営の構造がある.そこでの機能は,リーダーシップをとる中枢組織と,その方針を忠実に実行する下部組織の構造によって支えられる.これを医療の場に置き換えると,チームリーダーの役割は医師がとることが圧倒的に多く,その下にさまざまな専門職が医師の指示の下に動く構造となる.この組織は本来クライエント支援のための組織ではあるのだが,時に組織(身内)を守るための組織ともなりやすく,保護者やクライエントは,「素人」,「子ども」という枠で蚊帳の外に置かれがちである.インフォームド・コンセントやセカンド・オピニオンを保証し,当事者が選択や決定に参加する権利を保障する動きは現在でも日本に定着しているとはいいがたい.それは教育の場も同様で,指導方針や方法の決定は教師(学校,教育委員会,文科省)主導で行われ,子どもや保護者,もしくは外部の専門家等のチームで協働して行われることはまだまれである.むしろ子どもや保護者はその方針を甘んじて受け入れざるを得ないことのほうが多い.このような組織構造の下では,クライエントに一番身近で現状理解にも詳しい,言わば「当事者に一番近い」人たちが,そのニーズを汲み取り,柔軟に自由な発想で動くことは難しく,保護者も子どもも一番弱い立場にある.またこの組織の外にいる人たち(たとえば筆者の立場のような,市井の小さな児童発達支援事業所等)も,医療や教育の場にアクセスする道は決して平坦ではない.
もちろんここに風穴を開ける試みはすでに始まってはいる.文部科学省は発達障害がある児童・生徒の支援組織を提示した際,「外部の専門家」を学校で活用する方針を示しており,厚生労働省の管轄である児童発達支援事業所の活動の中にも連携活動として,保育所等訪問事業が組み込まれている.
本稿では,このような日本の現状を踏まえつつ,本来のチームワーク,連携のあり方にどのように向かっていくのか,実践的な配慮点にも触れつつ考えていきたい.
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