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Key Questions
Q1:コンピテンシーに基づいた臨床実習体制の構築とは?
Q2:臨床参加型実習の特徴とは?
Q3:臨床実習において職業アイデンティティを高める方略は?
はじめに
本稿では,本学が臨床参加型実習の導入に至った経緯を述べ,続いて臨床参加型実習の実践例を紹介する.OTを目指す学生であっても,入学時にはOTの仕事内容について漠然としたイメージしかもっていない者が一定数いるのではないだろうか.本学は,初年次の富士吉田教育部(山梨県)での医・歯・薬の各学部および,作業療法・理学療法・看護学科が所属する保健医療学部の4学部合同の寮生活をはじめとした他の医療職種との連携が特徴である.しかしそれゆえにOTの職業像をつかみ切れていない学生は,「職業アイデンティティ」に悩むこととなる.われわれはこうした現状に対し,目指すべきOTの職業像をしっかりと定め,そこへ向かっていくカリキュラムの必要性を痛感し,その再構築を進めてきた.従来のカリキュラムの見直しに際し,「そもそもわれわれが養成しようとしているOT像とはどのようなものだろうか?」ということが議論になった.その中で,学生からは作業療法がわかりにくいということをよく耳にするが,作業療法の本質を考えると,OTは「(できていない)作業をできるようにする」という独自性をもつ明快な職種であり,北米を中心に国際的にもこうした方向性が示されていることからも,「Enabling Occupation」をキーワードととらえることとした.その結果,卒業時のコンピテンシーを「『その人にとって意味のある作業ができるように仕向ける』という作業療法の本質を実践するために必要な知識・技能・態度を身につける」と定め,こうした作業療法の実践ができる人材の養成を目指すという結論に至った.特に,「その人にとって意味のある作業」を理解するために,対象者の習慣・文化・価値等の背景を考慮し,対象者を身体障害や精神障害等の領域によって区別するのではなく,人としてとらえることを学生が十分に理解していくことが重要と考えている.そのためには,疾患や障害分野別に構築されている科目群の内容や配当年次の検討等,4年間の教育プロセスを根本的に見直し,コンピテンシーに到達するための各学年の目標を設定し,講義・演習と臨床実習とを有機的に関連づけていくカリキュラムを構築する必要がある.現在,1年次の講義・演習および1〜4年次の臨床実習をはじめ,順次カリキュラムの見直しを進めているところである.
学生が臨床実習を通じて,作業療法を受けている対象者および作業療法の実践者である臨床実習指導者(以下,指導者)から実際の場面で学ぶことの意義は大きい.それだけに学生が,目の前の指導者が今まさに「その人にとって意味のある作業ができるようにする」という作業療法を実践しているのだと実感し,「ああ,なるほどわかった」とならなければ,われわれが目指すコンピテンシーに向けた臨床実習が意味をもたなくなる.ここで,臨床場面でOTがどのような作業療法的視点をもって対象者を支援しているのかを学生が理解していくには,臨床参加型実習および電子ポートフォリオ・システム(以下,PFS)を用いた双方向学習体制の導入が最善との考えに至った.
本学の教育体制は大学教員(以下,教員)と共に附属病院配置の臨床教員および技術職員であるOTで構成されている.臨床教員は附属病院でOTとしての臨床業務とともに,教育職員として臨床現場での学生指導の主導的役割を担っている1).また,技術職員として臨床業務に従事するOTも教育者との位置づけであり,これは本学の「優れた医療人の育成」に向けた教育施設としての附属病院のあり方が貫かれているからである.このため臨床実習では,臨床教員および現場のOTとが臨床実習の指導者として臨床教育にあたっている.さらには,臨床実習を附属病院で実施する方針が強力に打ち出されたこともあり,作業療法学科では2016年度(平成28年度)からすべての臨床実習を附属病院で実施することとなった.こうした中,臨床参加型実習体制を導入することとなり,臨床教育に携わる全職員の間でコンピテンシーを共有することや,教員と臨床教員との定期的な会議をもち大学と臨床現場の意思の疎通を図ることで,大学-附属病院間での偏りのない教育環境の整備を進めているところである.
いわゆる従来型と呼ばれる患者担当制の臨床実習では,学生は検査・測定やケースレポートの作成に多くの時間を費やし,現場でのOTの思考過程を学ぶ機会が少ないように思われる.一方,われわれが目指すコンピテンシーを考えたときに,全学年のあらゆる臨床実習場面で,「その人にとって意味のある作業ができるように仕向ける」という作業療法の本質を明確に意識した指導の必要があった.しかし,従来の見学実習,評価実習,治療実習という形式では,最終的に作業療法が何を目指しているか,学生には見えにくくなっていることが懸念される.このため,臨床実習場面では常に作業療法の思考にあるゴールを見据えた観点から学生指導を行い,さらにその時点での学生の能力に合わせた見学,模倣,実施と,できる範囲での臨床参加を通じた学習が効果的なのではないかという学科内のコンセンサスに基づいて臨床参加型実習の導入に至ったものである.
また,PFSはすでに大学全体でPBL(problem based learning:問題基盤型学習)等で運用されているシステムを使用した.これにより,実習記録等のやり取りを学生と指導者および教員との間で双方向に行うことが可能となり,指導上の齟齬が生じることや学生が現場でのフィードバックのために帰宅が遅くなることを防ぐ等の学習環境改善につながっている.
このように臨床実習の体制に関して,OTの職業アイデンティティを培うように大幅な変更を行ってきたが,現場で実際に学生の対応にあたるOTには,自らの思考過程を伝える技術や各学年における到達目標を熟知しておくこと等が求められるため,真の意味で臨床実習が軌道にのるにはまだまだ時間を要すると思われる.本学の臨床実習は新体制で動き出したばかりで依然として課題は多いが,以下に1〜4年次の実践例を紹介する.
(三橋幸聖)
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