かたらい
『赤い天使』を観て
大木 洋子
pp.109
発行日 1966年12月1日
Published Date 1966/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912981
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日本看護協会および連盟が狼火をあげた,大映映画『赤い天使』上映禁止運動は,マス・コミ,週刊誌のものめずらし気な視線をひとわたり集めたところで,立ち消えになり終りそうな気配です。このまま忘れてしまえば済んでしまうことでしょうが,まともに考えたら,これは複雑でしかも重大な問題を含んでいそうな気がします。さきざきのことも考え,思いつくまま問題提起してみたいと思います。まず上映を禁止せよということは,せんじつめればくさいものにはフタをしろ,観ないで済ませということになるわけですが,くさいものをなくすためのこの古典的な方法は,安易なだけにまた大いに問題なのではないでしょうか。少なくとも,あらかじめフタをしてしまう前に,それがほんとうにくさいものかどうかを自分の目で確かめるだけの権利は看護婦といわず誰しもが持てるはずでありましょう。逆にまた,作品を提供する側にも,自分の作ったものがクサイものかどうか,判断してもらうために作品を発表する権利だけはあってしかるべきだと思うのです。近代民主主義社会におけるフェアーなやり方というのはその両方の権利をお互いに認めるということなのですから。上映を禁止せよと主張することは,下手をすると,そのいずれの権利をもまっ殺せよと主張するファシズムの思想と同じになりかねない危険性を伴っています。
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