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はじめに
元国会議員である山本譲司氏は政策秘書給与流用事件で実刑判決を受け,刑務所に服役した.山本氏は刑務所内での世話係という役割が与えられる.その役割とは刑務所内で自立した生活が困難な障害者の介助をする役割であった.身体障害者や精神障害者,知的障害者,そしてここが刑務所だとも認識していない認知症の方も刑務所内には多くいたという.この自らの獄中体験を記した『獄窓記』1)で,日本の刑務所が高齢福祉施設化されてきており,福祉の最終的なセーフティネットになっている実態が明らかにされた.
近年刑務所入所者の高齢化が進んでおり,『平成26年版犯罪白書』によると,入所者に占める60歳以上の割合は男子で17.0%,女子で21.6%を占めている2).正確な実数は出されていないが,その中には認知症の方も数多く存在するともいわれている.昨今,司法分野においては,必要な触法障害者に対しては刑罰よりも支援といった考えの転換点にきており,刑務所でありながらも触法障害者の社会復帰の役割を担った「社会復帰促進センター」の設立等,触法障害者に対してのさまざまな法制度が整備されてきている.そのような流れもあり,今後はOTも触法障害者の支援に携わる機会が増えていくものと考えられる3).
触法高齢者の処遇については,主に刑事罰が問われる場合と認知症等の影響により事件には責任性が問われない2つのパターンがある.今回は後者のパターンの現状について報告したい.「触法」という言葉は普段の臨床とはまったく関係ない印象を抱く方もいるかと思う.しかし,認知症も病状の悪化により,触法行為に至ることがあるのは事実である.今回は筆者の臨床経験の中で出会った,認知症となり事件を起こしてしまった事例と,逆に被害に遭ってしまった事例について紹介し,普段の臨床におけるOTのかかわりと役割がいかに重要かについて説明したい.
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