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はじめに
中枢神経損傷に対するリハビリテーションは,20世紀前半には“損傷した中枢神経の再生がないから機能障害は回復しない”との考えから,漸増抵抗運動などの伝統的運動療法によって残存能力を高め代償手段を獲得することに主眼が置かれてきたが,20世紀半ばに機能回復を目的としたBobath法やBrunnstrom法,Proprioceptive Neuromuscular Facilitation(PNF)などの神経筋促通法が提唱された1).さらに20世紀後半には,脳科学や神経科学の発展に伴い脳の可塑性が明らかとなり,脳の可塑性を活かした科学的知見に基づく機能障害へのリハビリテーションが発展を続けている.なかでも,脳卒中後の上下肢麻痺や歩行改善を目標とした治療法としては,CI療法(Constraint- Induced Movement Therapy:CIMT)や筋電バイオフィードバック,電気刺激療法,運動イメージ,経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation:rTMS),ロボット療法,部分免荷トレッドミル歩行練習など多様なリハビリテーション治療が開発され,いずれも有効性が示されている.これらの有用な治療法に共通していえることは,練習量(時間)や頻度(反復練習)を増やすことにある.さらに,質(内容)を高めるためには,患者に合わせた実際の活動場面での課題設定を遂行する課題志向型(Task-oriented)の練習が重視されている2).
一方で,前述した従来の神経筋促通法は,神経生理学的あるいは神経発達学的アプローチによって,不足した正常の要素を促通し異常な反射機構を抑制することで麻痺回復の促進をめざして長年の研究と臨床経験を積み,現在も理学療法における臨床場面では広く用いられている.しかし,米国におけるSTEP Conference(1990 & 2005)では,その効果はほとんどないとされ,これまでのメタアナリシス3)においても,Bobath法をはじめとする従来の神経筋促通法は麻痺の回復を促通する治療法とはいえないことが示されている.さらに,本邦での脳卒中治療ガイドライン20094)では「行っても良いが,伝統的なリハビリテーションより有効である科学的根拠はない(グレードC1)」と明記されていたが,改訂された脳卒中治療ガイドライン20155)では,推奨項目から削除されている.
われわれが脳卒中片麻痺の治療に用いている促通反復療法(Repetitive Facilitative Exercise:RFE)は神経筋促通法に含まれるが,治療理論は最新の脳科学を基盤としており,脳の可塑性を生かして最大限の運動機能改善を実現するための治療法である6).本稿では,促通反復療法の理論的背景と治療効果,脳機能への影響について理学療法での自験例を含め概説する.
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