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Key Questions
Q1:世界作業療法士連盟の教育の最低基準で示される有能な実践のための5領域とは?
Q2:世界作業療法士連盟の教育の最低基準で述べられている「作業に関する知識と技術」の内容とは?
Q3:クライエント中心の作業を基盤にした作業療法実践に必要な知識と技術を意識した授業をしてなお,なくならない学生の態度はどのような態度か? その態度はなぜなくならないのか?
はじめに
世界作業療法士連盟(World Federation of Occupational Therapists:WFOT)の教育の最低基準〔2002年(平成14年)〕では,作業はOT教育へのすべてのプログラムの中心であることを明記している1).そして,有能な実践のために,
・人間-作業-環境の関係と,健康と福祉に対する作業の関係
・治療的および専門的人間関係
・作業療法の過程
・専門家としてのリーズニングと行動
・専門的実践の文脈
という5つの領域で,相当の知識・技術・態度をもって卒業することが期待されている.特に作業に関する知識や作業を基盤とした治療・介入技術の習得が,今までになく重要視され不可欠であることが強調され,その範囲も明確化された.少なくとも10年以上前に養成校を卒業してOTになった人たちは,卒後自分なりに勉強したり,作業を用いた実践経験上で自ら身につけているということがないかぎり,かなりの部分で知識・技術ともに不足している可能性が高い.そして,このことは,学生が臨床実習で,臨床実習指導者からこれら作業の知識や技術に基づく実践を適切に指導してもらえない,それどころか養成校教育を担う教員が適切に知識技術を教授できていない可能性があることも同時に示唆する.これは日本に限ったことではないが,いかに教育に携わる人材が作業の知識および作業の可能化の技術を習得し,教育できるレベルまで高められるかが問われている.
たとえば,経験上,身体障害領域の実習地訪問で指導者から学生の不足部分で指摘を受けるのは,疾患や運動学,解剖学の知識,動作分析の技術が不十分だということが多い.確かにこれらの知識や技術は身体障害領域では重要であるが,その一方で,クライエントのしたい,しなければならない,することを期待されている作業に関する知識が不足している,作業を用いた治療の知識・技術が不足している,作業の可能化への知識・技術が不足している,クライエント中心の作業療法実践に必要な技術が足らない,と指摘を受けることはほとんどない.指摘がない理由が,学生が十分にこれらの知識や技術を身につけているからであればよいのだが,残念ながら実際には,現在の実習指導者が受けた卒前教育の影響もあり,クライエント中心の実践や作業に関する知識や技術が重要視されていないことが理由であることが現状であるように感じる.また,臨床実習指導者からのプレッシャーがないこともあり,まだ養成校によっては作業に関する技術や知識に関する授業内容が10年以上前から変わっていないところも少なくないようである.
茨城県立医療大学(以下,本学)では,約7年前から,いわゆるクライエント中心の作業を基盤とした作業療法実践ができることを目標に,従来の講義・演習内容を徐々に変えてきた.ちなみに,ここでいうクライエント中心とは,クライエントを自身の専門家として尊重し,クライエントの経験と知識に理解を示し,クライエントと協働しながら意思決定を行い,クライエントのニーズを満たすことであり,OTや医師のような専門家がクライエントのためを思い,専門家がベストだと決定した目標や実践内容を進めていくことではない2).また,作業を基盤とした作業療法実践とは,クライエントのもつ作業上の問題を明らかにし,クライエントと協働して取り組むことを決めた作業で評価を行い,作業を用いて治療・介入,あるいは作業が直接的に可能となる介入・支援を行うことである.
おおむね5年以上前に卒業した卒業生が現在の講義・演習内容を知る機会があると,「自分たちもこのような講義や授業を受けていたら,もう少し迷わずに作業を基盤とした作業療法実践ができていたかもしれない」,「こうして作業の知識が増えれば,なぜ,作業を用いて治療・介入をすることがよいのか,患者や他職種に説明するのが容易になるし,自分ももっと自信をもてる」,「うらやましい」というコメントをもらうことも少なくない.もちろん卒業生なので,多少のお世辞も含まれているとは思うが,少なくとも7年前と比較すると,本学ではよりWFOTの教育の最低基準に沿ったかたちで,またクライエント中心の作業を基盤とした実践に結びつく教育が行われてきていると自負している.
近年,WFOTの教育の最低基準に明記されている「作業に関する知識と技術」を満たした教育へとシフトを試みている養成校も増えてきている.そこで,本稿では,教育に携わる臨床の,あるいは養成校に勤めるOTが,今後の卒前教育の再構成を行う際のたたき台や参考にしていただくため,以下について本学の教育実践を紹介することを目的とする.
1)4年間で現在,WFOTの教育の最低基準に記載されている作業療法実践に不可欠な「作業に関する知識と技術」をどのように構成しているのか
2)クライエント中心に,そして作業を治療的に用いるために,あるいは作業の可能化のための作業療法実践プロセスを学ぶために,どのように事例を通した問題解決型の授業を取り入れているのか
3)クライエント中心の作業を基盤とした実践の基礎が実習前,卒業前に身についているかを確認するために,どのように客観的臨床能力試験を用いているか
4)現状の問題点と今後
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