別冊秋号 —麻酔科医なら知っておきたい—血栓症・塞栓症
PART1 総論
コラム1 肺血栓塞栓症を巡る医学史
坪川 恒久
1
1東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
pp.26-29
発行日 2021年9月17日
Published Date 2021/9/17
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200220
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先達の挑戦
下肢静脈血栓症に関する記述は1200年代から散見される。例えば1700年頃にフランス人François Mauriceauは彼の叔母が出産後に片足が大きく腫れあがり38歳で亡くなるまで腫れが続いていたと記述している。このように,産後に足が腫れあがった状態が続き,皮膚の色が白くなり,有痛性で圧迫により痛みは増強するような症状を欧州ではmilk legと呼ぶようになり,母乳が溜まるためだと信じられていたようだ。これをもみほぐそうものなら,悲惨な結果になっていただろう。
さまざまな原因が提唱されたが,解決したのはドイツの病理学者Rudolf Virchow(写真)である。Virchowは膨大な数の剖検と臨床経験から,1856年に静脈血栓の原因は,血液の滞留,静脈の傷害,過凝固である(Virchowの三徴)と発表して,この議論に終止符を打った。しかし,この知識が予防,治療に役立てられるようになるまでには長い年月が必要であった(出産後の女性の早期離床が言われるようになったのは,1940年以降である)。
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