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【私と五省の教え】
私の祖父は陸軍軍医であった。義理の父は陸上自衛隊OBである。実家の勉強机には「五省」を書いた紙が貼ってあった。当時はなんのことやらわからなかったが,五省とは旧日本海軍兵学校の生徒がその日の行いを反省するための訓示である。戦後米軍の教育題材にも採用されている。
私の父は元外科医で現在は晴れて常勤を引退し,一般内科の非常勤医師である。学生時代に一時休学して自衛隊に入隊していたらしい。かなりの変態と予想される。戦闘機や戦車の模型に囲まれて,私もミリタリーオタクになってしまった。
父の一般外科医時代は一人で全身麻酔の予定帝王切開もやっていたらしい。意味がわからない。小中高と,早朝から医学ラジオ放送に耳を傾け何やらノートに記す父の姿をみて育った。字はあまりに汚く解読不能だった。私は卒後5年目に大腸外科医から麻酔科医へ転向した。父はやや落胆した様子だったが,母は「お父さんだって最終の大学所属は麻酔科だったのよ」と。そんなこと初めて聞いた。問いただすと星状神経節ブロックの勉強のために●●大学の非常勤医員だったそうだ。遺伝はあるものだと安心した。父の現役バリバリの頃をみたかったが,今でも最も尊敬する医師である。
そんなわけで,私も5年生のときから実習や実務で学んだ内容をノートに記している。勉強になったことや怒られたことなどいろいろである。疑問をもったこと自体を忘れてしまう経験は皆さんにもあるだろう。時間がたつと感情しか残らないので,基本的にはその日のうちに,遅くとも翌日までに疑問点だけでもよいからノートに記す習慣を,この12年間4383日間なんとか継続している。ノートの書き方も年々進歩し,自分の経験症例に関する事実,自分の仮説,参考文献,術中写真など整理して記載しており,現在は,いわば紙上クラウド状態になっている。200ページの大学ノートが1年で10冊前後できあがる。またノートの表紙は元気がでるようにデコレーションして楽しんでいる。今夜はその中のエピソードを踏まえて,若手医師に麻酔科医としての矜持を伝えたい。
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