別冊春号 2021のシェヘラザードたち
第9夜 術中心停止,よもやま話—術中心停止は忘れた頃にやってくる
髙橋 伸二
1
1順天堂大学浦安病院 麻酔科ペインクリニック
pp.53-57
発行日 2021年4月15日
Published Date 2021/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200199
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
麻酔科医にとって麻酔は日常である。日常的に,患者の意識をとり,呼吸を止めている。もちろん,適切に薬物を用い,人工呼吸して患者の安全を確保している。しかし,頻度は低いものの,術中心停止に陥る症例が存在する。国,地域,病院でもその発生頻度は異なるが,おおむね1万件に1件程度と考えられている。日本麻酔科学会の調べでは,心停止の発生が1万件当たり0.8〜1.2件で,心停止後の死亡については,術中死亡が1万件当たり0.2件,30日死亡が0.5件程度と報告されている。麻酔科専門医がちょっと焦る(?)血圧低下や徐脈,低酸素血症などは調査がしにくい。したがって,ニアミスはもっと発生していると思われる。医療安全的にはニアミスも含めて,院内のデータを把握して対策を進める必要がある。
麻酔管理中の心停止の原因はさまざまであるが,気道の問題,薬物の過量投与,出血によるものが多いと報告されている。もちろん,モニタリングされて,麻酔科医がそばにいるところで術中心停止になったとしても,院外や院内での突然の心停止と比較すれば,はるかに蘇生率が高い。とはいえ,術中心停止の蘇生率がおおむね60%と考えられており,3分の1が死亡すると考えると,やはり危険な合併症といえる。
術中心停止の原因はさまざまである。多くの場合,術前からある合併症リスクが高い場合に発生しやすい。したがって,心停止を防ぐためには術前評価を的確に実施する必要がある。備えあれば憂いなし。軽装での山登りで遭難するようなことにならないようにすべきである。自戒を込めていくつかの症例を提示しながら術中心停止についてお話ししよう。
Copyright © 2021, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.