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■臨床の視点
▲鎮痛と鎮静の境界線
痛みとは,主観的で過去の痛み記憶にもとづき表現される不快な情動体験である。また,元来個人差が大きいと考えられ,痛みの強さの程度を客観的にとらえることは非常に困難である。大量の鎮痛薬を投与しているのだから痛いのは心理的要因によるもの,ととらえられるケースも少なくない。鎮静薬が併用投与されたあとに痛みが落ち着いた場合はなおさらである。
全身麻酔においては,鎮静,鎮痛,筋弛緩の三要素を適切に達成するためのバランス麻酔の概念が普及している。この麻酔概念の普及などにより浅麻酔や術中覚醒は飛躍的に減少し,(術後,予想をはるかに上回るオピオイドが必要な患者もいるが,)手術中は少なくとも鎮痛に難渋することはきわめてまれとなった。術後もマルチモーダル鎮痛が普及し,オピオイドのみに頼るのではなく,適宜他の鎮静薬を組み合わせることによって痛みのコントロールが容易になった。
また,ペインクリニック領域でも抗痙攣薬や抗うつ薬,オピオイドのみならず抗不安薬などの薬物を組み合わせて使用することがある。おのおのの薬物は単独で用いるよりも他の薬物と併用することによってより効果的なことがある。
鎮静薬と併用したとき,鎮痛薬の効果が増強することはあるのか? どの薬物の組み合わせが最も鎮痛に効果的か? 麻酔科医の経験で行ってきた鎮痛法は真に整合しているか? さまざまな視点とアプローチから基礎研究が行われ,それらを統合することでこれらの疑問は徐々に解明されつつある。
われわれは,痛みの伝達と修飾に重要な役割を担う脊髄後角膠様質(SG)細胞1)のγ-アミノ酪酸type A(GABAA)受容体に着目し,ベンゾジアゼピンであるミダゾラムと下行性抑制系(オピオイドや抗うつ薬の鎮痛作用の一部)神経伝達物質であるノルアドレナリンの相互作用について研究を行った2)。
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