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■臨床の視点
▲幻肢を運動できると実感する患者はほとんどいないが,幻肢の運動感覚と痛み(幻肢痛)には関連があるのか?
超高齢社会が進み,また壮年期からの糖尿病人口の増加もあり,四肢切断手術を受ける患者は増加している。われわれ麻酔科医は術中および術後急性期管理では区域麻酔による疼痛管理を図っても,創部が治癒した頃には区域麻酔も終了することになる。しかし,術後亜急性期から多くの患者が創部痛以外の切断肢の痛みを訴えるようになり,血管外科医や整形外科医から疼痛管理を依頼されることが少なくない。このような幻肢痛に対しては,区域麻酔はもとよりオピオイド鎮痛薬も抵抗性で,他の神経障害性疼痛治療薬でも十分に痛みを緩和できないことが少なくなく,患者の痛みは数か月から年単位にわたって継続することもある。
そもそも幻肢痛を考える前に,幻肢とは一体どのような現象なのだろうか? 例えば,脊髄くも膜下麻酔を実施直後に仰臥位に体位変換したとき,「両下肢(膝関節・股関節)は伸展しているか? 屈曲しているか?」と質問したことはあるだろうか。効果発現の早い局所麻酔薬(例:高比重ブピバカイン)を用いた場合には,実際には仰臥位で下肢は伸展位であるにもかかわらず,多くの患者が「膝関節と股関節は屈曲している」と回答することを経験する1)。この患者の身体経験はまさに幻肢であり,幻肢を伸展位にしてみるように指示しても運動感が得られることはほとんどない。このように幻肢は,基本的に随意運動(したような感覚の生成)ができない。しかし,四肢切断後の幻肢について随意運動をできるという患者もおり,このような患者では痛み(幻肢痛)が少ないと経験的に知られている。
そこでわれわれは,幻肢の随意運動を健側肢の運動により評価する方法を開発2)し,さらにvirtual reality(VR:仮想現実,図1)を用いて幻肢の随意運動の訓練とそれによる幻肢痛の改善効果3)を検証した。
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