別冊秋号 疼痛と鎮痛
Part Ⅳ 病態へのアプローチ:慢性痛を中心に
15 下行性抑制系の基礎研究—慢性痛時には下行性抑制系が減弱する
小幡 英章
1
1福島県立医科大学附属病院 痛み緩和医療センター
pp.121-125
発行日 2018年9月20日
Published Date 2018/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200041
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■臨床の視点
▲慢性痛治療の本質とは?
神経障害性疼痛や線維筋痛症のような慢性痛の薬物治療を考えたとき,きわめて特徴的なことがある。それは三環系抗うつ薬,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)やCa2+チャネルα2δリガンド(プレガバリン,ガバペンチン)といった薬物を使用することである1)。手術後痛に対して頻用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),アセトアミノフェン,オピオイドのような鎮痛薬は,有効性が低下するためほとんど用いられない。このような違いはどうして生じるのだろう。
それは,鎮痛薬は主に上行性の痛みを遮断するが,三環系抗うつ薬,SNRI,Ca2+チャネルα2δリガンドは,生体にもともと備わっている下行性抑制系を利用して痛みを抑制する,という点にある。すなわち慢性痛においては,上行性の痛みはもはや重要でなく,下行性抑制系を含む内因性鎮痛系に異常が生じた病態であり,それを修復することによって痛みも軽減すると考えられる。下行性抑制系の重要な起点となる部位は,主に脳幹に存在する。そのなかでも青斑核から脊髄後角に投射するノルアドレナリン作動性下行性抑制系は,慢性痛の抑制に関して特に重要な役割を果たしている。
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