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はじめに—幻肢と幻肢痛とは?
幻肢痛の発症機序の一つとして,患肢についての運動系と感覚系の協応関係の破綻が考えられている.仮想現実(virtual reality:VR)を用いた幻肢痛治療は,患肢に類似した視覚情報(映像)を入力することにより運動系と感覚系の協応関係を再構築することで幻肢痛を改善する.VR治療の鎮痛メカニズムを概説するとともに,整形外科領域では骨軟部腫瘍罹患後の幻肢痛もあり,VR空間でのがんピアサポートの新しい試みを紹介する.
四肢切断後の患者の80%以上は失った四肢が存在するような錯覚(phantom limb awareness)や失った四肢が存在していた空間に温冷感や痺れ感などの感覚(phantom sensation)を知覚し,これらの感覚経験を幻肢と総称する.幻肢は四肢切断でなくても,脊髄損傷や神経叢損傷などの運動麻痺や感覚遮断によっても発症し,これらは余剰幻肢と呼ばれる.幻肢に合併する病的痛み(幻肢痛:phantom limb pain)の発症頻度は四肢切断患者の50〜80%とされ,その長期予後は報告によって異なるものの大部分の患者では数年を経ても幻肢痛を伴っている1).
幻肢痛の発症機序としては,末梢神経の損傷によってできた神経腫由来の異常インパルスや脊髄レベルでの神経細胞の易興奮性,脊髄よりも上位中枢神経系レベルでの易興奮性がさまざまな要因によって誘発されることが動物実験から示されてきていたが,ヒト幻肢痛患者を対象とした脳機能画像研究からは大脳などの脊髄よりも上位の中枢神経系レベルでの機能再構築(reorganization)が幻肢痛の発症基盤として中心的な役割を果たしていると考えられている.一次体性感覚野(primary sensory cortex:S1)には身体部位に応じた脳領域が存在することが知られ,これらを体部位再現地図(somatotopy)と呼ぶ(図1b).上肢切断後患者では患側上肢に相当する脳領域が縮小し,上肢の隣に位置する口/顔面の領域が拡大してくる機能再構築がS1で認められる(図1a)2).このような四肢切断後幻肢痛患者でのS1の機能再構築では,断端部の触覚弁別を訓練することによって上肢の領域が拡大(口/顔面の領域が縮小)する機能再構築が再び起こり,それと同時に幻肢痛が軽減することが報告されている2).さらに,一次運動野(primary motor cortex:M1)にも体部位再現地図があり,上肢切断後幻肢痛患者では上肢領域の縮小と口/顔面領域の拡大が認められ上肢領域に存在する神経細胞の興奮性が高まっている.このようなS1/M1の機能再構築は,上肢切断後に幻肢を知覚するが疼痛(幻肢痛)を伴わない患者にはほとんど観察されず,M1と幻肢痛は密接に関連している.
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