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■臨床の視点
▲炎症性疼痛に対する鎮痛薬の副作用を軽減するには?
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)は外傷,術後痛,関節痛,がん性疼痛など,炎症に起因する痛みに広く用いられている。一方で,関節痛など痛みが慢性の経過をとる場合,その服用は長期にわたり,特に高齢者では消化管出血,腎障害といった副作用が問題となる。最近では術後鎮痛目的の一時的な使用でも,術後出血,腸管縫合不全などの合併症が増加することが示唆されている1)。それでもNSAIDsが炎症に起因するさまざまな痛みに汎用されるのは,アラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(COX)-2によって産生される代謝産物の炎症性疼痛への寄与が大きいからであり,NSAIDsの抗炎症作用による鎮痛が広く認識されているからとも言える。もし止血作用や腎機能に障害をもたらすことのない,アラキドン酸カスケードの代謝産物をターゲットとした新たな鎮痛薬を見いだせれば,高齢化に伴い増加傾向にある慢性炎症性疼痛にも安全に使用することができる。
炎症部位では,COX-2代謝経路の活性化によってプロスタグランジン(PG)E2のような炎症促進作用,血管拡張作用を有する分子が産生される一方で,15-デオキシ-Δ12,14-プロスタグランジンJ2(15d-PGJ2)など抗炎症作用を有し,創傷治癒過程への移行を促す分子も産生される(図1)。15d-PGJ2はマクロファージの核内受容体であるperoxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)に作用することによって炎症を収束させる2)。そのためCOX-2ではなく,さらに下流のPPARγをターゲットとし,その鎮痛効果を検証することにより,NSAIDs特有の副作用を伴うことなく,原因疾患の炎症に伴う痛みを緩和する方法を見いだせると考え,本研究に至った。
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