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■臨床の視点
▲創傷治癒と疼痛増強に関係はあるのか?
手術には組織の損傷がつきものである。組織損傷の大きさや位置を見て,われわれは術後の痛みを予測し,さまざまな鎮痛方法を計画する。しかしながら,ときにはわれわれの予測以上に強い術後痛を訴える患者も存在する。また,組織損傷が修復されたあともなお,疼痛が残存する患者も存在する。
痛みの強さは体に加わる刺激が増強するのに伴い増強する(図1A,図では痛みと刺激の関係を直線で示したが,実際の関係が直線的であるとは限らない)。図に示した刺激-痛み関係はさまざまな要因によって変化する。図1Bにおいて,線aが線bへと左方移動すると,同じ強さの刺激に対して,より強い痛みを自覚することになる。この線bの状態を“痛覚過敏”と呼んでいる。術後患者における組織損傷部位の周囲には痛覚過敏が生じていることが知られており,強い急性痛や痛みの慢性化と痛覚過敏は密接な関係にある。
手術後の痛覚過敏には一次知覚神経の感作が重要な役割を果たしている。一次知覚神経は組織炎症や軸索の切断など,さまざまな理由で感作される。知覚神経の興奮性が増大した結果,痛覚過敏が成立する。損傷を受けた組織では,多くの生理活性物質が合成され,創傷治癒機転が生じる。われわれは,創傷治癒に働く物質と痛覚過敏の間にはどのような関連があるのかを調べることにした。
インスリン様成長因子insulin-like growth factor(IGF)-1はインスリンによく似た構造をもつホルモンである。下垂体前葉ホルモンである成長ホルモンの刺激により主に肝臓で合成され,血流に乗り各臓器に存在するIGF受容体に作用して効果を発揮する。IGF-1は皮膚組織でも合成され,その恒常性を維持するために重要な役割を果たしている1)。IGF-1は創傷部位に多く存在し,ケラチノサイトの増殖を活性化させる。過剰なIGF-1は肥厚性瘢痕形成に関与する一方,糖尿病患者では創傷部位におけるIGF-1の合成不全により創傷治癒が遅延する。
IGF-1は,カプサイシン受容体であるtransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)やナトリウムチャネルの機能を修飾することで一次知覚神経に影響を及ぼしている可能性が示唆されている2)が,創傷治癒に伴って合成される皮膚組織のIGF-1が痛覚伝達に及ぼす影響は明らかではなかった。われわれは,ラット術後痛モデルを用いて,創傷組織のIGF-1が術後痛覚過敏に及ぼす影響を研究した3)。
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