- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
慢性腰下肢痛は,ペインクリニック外来を受診する患者のなかで大きい割合を占める代表的な疾患群である。同じくペインクリニックの代表的な疾患である帯状疱疹後神経痛とは異なり,慢性腰下肢痛の原因は非常に多岐にわたり複雑である。慢性腰下肢痛の原因として,腰仙椎や筋・筋膜などの身体的(器質的)因子が長年注目され(生物学的モデル),ペインクリニックでは主に脊椎疾患に対する神経ブロック治療や,筋筋膜性腰痛に対するトリガーポイント注射や筋膜リリースが行われている。しかし慢性の痛みにおいては,身体的因子に加えて脊髄や脳における痛覚神経系の機能変化,さらには心理社会的因子の影響まで,さまざまな要因が患者ごとに複合的に関与することが明らかになってきた1)。そのため,ペインクリニックで慢性腰下肢痛の治療を行うにあたり,まずは多面的な腰下肢痛の原因評価,つまり生物学的モデルにもとづいて腰椎などの身体的因子のみを評価するのではなく,生物心理社会的モデル(図1)にもとづいた患者評価を行い,その結果にもとづいて治療方針を選択・決定していくことが推奨されるようになっている。しかし,これが一筋縄ではいかない。痛みは“実質的または潜在的な組織損傷に結び付く,あるいはこのような損傷を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験”と定義されているが2),この感覚と情動,あるいは身体的因子と心理的因子は完全に区別できるものではない。慢性腰下肢痛患者においても,どちらか一方だけが原因であると断定されることはきわめてまれであり,また身体的因子と心理社会的因子のどちらの影響が大きいかを判断することは,経験豊富なペインクリニシャンであっても簡単ではない。
ペインクリニックの診療をしていると,慢性腰下肢痛患者がうつ病を併発したり,うつ病ではないものの抑うつ気分を伴っていたりする,あるいはうつ病患者が慢性腰下肢痛を訴えることをしばしば経験する。身体的因子の治療のため神経ブロックをするべきか,うつの治療と心理的なサポートを優先するべきか悩んだあげく,うまく治療が進むこともあれば想定外の結果になることもある。
以下に示す症例は,患者のプライバシーに配慮し,本稿の主旨に影響しない範囲で改変を加えてある。
Copyright © 2018, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.