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薬は投与濃度が不足すると必要な効果が得られない。しかし,過剰になると副作用を生じることもある。例えば全身麻酔薬では,投与不足によって術中覚醒の可能性が生じ,過剰投与によって覚醒遅延や低血圧などの副作用が生じ得る(図1)。麻薬性鎮痛薬であれば,投与不足によりストレス反応を抑えられず術後の回復に悪影響を及ぼすかもしれず,過剰投与は術中の徐脈・低血圧や覚醒時の呼吸抑制をきたすかもしれない(図1)。
上記のようなさまざまな望ましくない事象のなかでも,術中覚醒は最も避けたいが,同時に覚醒遅延も避けたい。過去の後向き研究の結果1)から,静脈麻酔は術中覚醒の頻度が高いと誤認されていることや,準備の手間などが相まって,静脈麻酔薬は維持に用いる全身麻酔薬としては選択しにくいかもしれない(なお,本当に静脈麻酔による全身麻酔が吸入麻酔による全身麻酔よりも術中覚醒が多いかどうかは明らかではない。後向き研究のデータはランダム割りつけではないため,必ず何らかのバイアスが含まれる。例えば,静脈麻酔症例の多くは若い麻酔科医が担当し,吸入麻酔症例の多くはベテランの麻酔科医が担当した,など)。
プロポフォールによる全静脈麻酔(TIVA)は,術後悪心・嘔吐(postoperative nausea and vomiting:PONV)を減らす対策の1つにあげられている2)。PONVのガイドライン2)においては,中等度のPONVリスク患者には1〜2つの対策を,高リスク患者には3つ以上の対策をすることを推奨している。プロポフォールによる全静脈麻酔を行えば,中等度のPONVリスク患者へのPONV対策を行っていることになり,患者に明らかなメリットがある。なお,中等度のPONVリスクをもつ成人患者とは,PONVのリスク因子である“女性”,“非喫煙者”,“PONVもしくは乗り物酔いの既往”,“術後麻薬使用”のうち2〜3つをもつ患者で,PONVの発生頻度は40〜60%である。また,高リスク患者はリスク因子の4つすべてをもち,PONVの発生頻度は80%である3)。
全静脈麻酔を行うときに迷うのは維持濃度である。覚醒濃度をうまく予測できると,維持濃度を決めるときの迷いを減らすことができる。ここでは,筆者が経験した症例をもとにして,過去の知見と経験とともに,維持濃度を決める考え方を紹介していく。
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