別冊春号 2018のシェヘラザードたち
第十七夜 腹臥位での術中事故抜管—不都合な真実
中山 英人
1
1埼玉医科大学病院 麻酔科
pp.109-112
発行日 2018年4月18日
Published Date 2018/4/18
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200017
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他科の医師にはない麻酔科医の特質,すなわち麻酔科医のアイデンティティーは何かと考えると,最終的には気道管理かな,というのが現時点での筆者の結論である。心臓のパフォーマンスの評価や不整脈の管理は循環器内科医に一歩以上譲るのではないかと思うが,気道管理において呼吸器内科医に劣るとは思えない。何といってもわれわれは日々気管挿管を実施し,その困難さや限界について熟知している。
気管挿管は一般に下記の条件を満たす者が行うべきとされる。
・十分な訓練を受けている
・頻繁に気管挿管を行っている
・手技についての再訓練を頻繁に受けている
・気管挿管が法的に規定された業務の範疇にある
という訳で,麻酔科医は気管挿管に関しては百戦錬磨である。凡百の医師と麻酔科医を懸絶するもの,それが気管挿管である。が,ときに御しがたい事態も出来する。
一般にわれわれは,自身にとって都合の悪い出来事は起きて欲しくないと思っているし,実際に起きた場合でも瞬時には受容しがたい。肉親の死,然り,突然の大災害,然り。人生のピットフォールに嵌まった瞬間,“まさか,そんなことが起こるはずが…”というのが最初の反応である。けれども氷壁でザイルが切れれば,自身が直面している状況を理解し受け入れられるかどうかにかかわらず,身体は正確に重力の法則に従って刻々と落下してゆく。
麻酔科医にとって悪夢の瞬間というものがある。腹臥位での事故抜管はその1つである。彼は悪夢をみた。
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