シネマ招待席
四谷怪談,四十七人の刺客
岡本 祐三
1
1神戸市立看護大学
pp.230
発行日 1996年5月15日
Published Date 1996/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688901162
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歴史上は「赤穂事件」と呼ばれる,この有名な出来事には2派の解釈がある。ひとつは歌舞伎の「忠臣蔵」に代表される忠君精神―封建時代の道徳の鑑(かがみ)として,もう1つは大仏次郎「赤穂浪士」に代表される,政治的暗殺―テロリズムの世界である.関が原の大合戦から100年後,まさに太平の世に起こったこの事件の解釈について,「義士」とせずに「浪士」という桜田門外暗殺事件の「水戸浪士」を連想させる政治的テロリストとしての息吹を与えたのがこの後者の解釈だ.無声映画の時代から繰り返しリメークされた時代劇の定番だが,前者の系統が圧倒的に多い.
一方「四谷怪談」は,江戸時代に「仮名手本忠臣蔵」と同時期に上演されたもので,当時の庶民が只飯食いの武士階級に求めた正のイメージが「忠臣蔵」としたら,手段を選ばず士官の道を貪る浪人の姿に,堕落した武士階級への軽蔑の負のイメージを託したのが「四谷怪談」で,これが戦士から官僚へと変貌しつつあった武士への,当時の庶民のアンビバレンツな心情の両面である.
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