連載 Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年
第十七編
石川 信克
1,2
1公益財団法人結核予防会
2結核予防会結核研究所
pp.1154-1158
発行日 2024年11月15日
Published Date 2024/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401210420
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保健ボランティアの活躍——最初に慰めを
保健ボランティアの活動を見て回った。ある村の保健ボランティア・チョッコラボッティさんを訪ねた。ヒンズー教徒で家もあまり豊かでない。彼女に「保健ボランティアをやって、どんな良いことがあるんですか?」と尋ねた。いわく、「いやあ、私は学校へ行けなかったんでね。いろいろ勉強ができて楽しいんです。」学ぶということは、人にとって楽しいことなのだ。「ところで、保健ボランティアって、何をするんですか?」すると彼女は、「保健ボランティアとはですね……」と身を乗り出した。きっとわれわれが教えた経口補水塩(oral rehydration salt: ORS)の作り方などと言うのだろうと予想していた。しかし彼女は、「バリ(家/集落)に病気の人が出るでしょう。そして、家族も苦しんでいるでしょ。私は、そういう人たちの所へ行って、プロトメ(最初に)、シャントナ(慰め)、ディテホベ(与えること)です。」と言う。まず慰めを与えること、これが保健ボランティアの最初の仕事だと言う。これは私たちが教えたことではなく、自らの実体験の中で考え出したのだった。何と素晴らしいことではないかと私は感心した。
私の目は開けてきた。人々には、われわれが思っている以上の可能性があるのだ。われわれ医療関係者が知らない所で、幾つかのNGOプロジェクトでショミティ活動や保健活動も行われている。そこを訪ね歩いてみることにした。ぬかるみの道や、畑の中を歩いて行くのは大変だ。何時間もかかる所もあった。しかし、そういう道を歩いて人々が普通に住んでいる所を訪ねる間に、車で乗り付けたのでは分からなかった実感や発見が出てくるのだ。
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