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添付文書の「妊婦,産婦,授乳婦への投与」という項で「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと」などと表現されている薬物は多い。しかし,集中治療が必要な症例では母体の状態を改善させることが最も重要であり,安全性が確立していない薬物であっても使用に踏み切らざるを得ないこともある。また,放射線を用いる検査も同様で,胎児に対する影響をおそれ回避されがちであるが,ICUに入室する患者には不可欠であることが多い。妊娠中の薬物療法,放射線を用いた検査を検討する際は,胎児への影響を考慮しながらの選択を強いられるが,添付文書は,そもそも使用を控えるよう記載しており,その判断材料としては適していない。
本稿では,母体の救命のために治療,検査を進めることを前提に,胎児への影響に関する情報を提供する。
Summary
●妊娠週数によって薬物・放射線による影響は異なるため,妊娠週数の確認が必須である。
●妊婦への放射線画像診断は最小限にすることが求められる一方,診断の遅れによる不利益を避けるため,胎児への影響を最小限にとどめる工夫を施しながら施行する必要がある。
●妊娠中の薬物動態は,循環血漿量の増加,タンパク結合率の低下,腎機能の変化の影響を受ける。
●昇圧薬,循環作動薬は,十分な補液や薬物以外の対処を行い,それでも血行動態が維持できなかった場合に使用する。
●鎮痛・鎮静薬を使用する際には,妊娠週数に特に注意が必要である。催奇形性が確認されている集中治療領域でよく使用される薬物に,ワルファリン,メトトレキサート,一部の抗てんかん薬などが挙げられるが,安全とされている薬物であっても妊娠週数によっては使用は慎まなければならない。
●授乳中に薬物を投与する際には,授乳中止という選択肢もあり,薬物選択の幅は広い。ただし,授乳によるメリット,断乳のデメリットもあるため,安易に授乳を中止すべきではない。
●授乳中の投与が禁止されている薬物には,抗癌剤と放射性ヨードが挙げられる。
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