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本稿では,播種性血管内凝固症候群(DIC)との鑑別が必要とされる血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),溶血性尿毒症症候群(HUS),移植後血栓性微小血管症(TMA)について,それぞれの歴史的背景と病因,病態と治療方針について概説する。
Summary
●血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は微小血管症性溶血性貧血,血小板減少性紫斑,精神神経症状,腎機能障害,発熱の5徴候を呈する疾患であり,止血因子であるvon Willebrand因子(VWF)を特異的に切断し,その機能調節を司っている酵素であるADAMTS13活性の著減によりVWF依存性血小板血栓形成が亢進し,全身性の血栓症が引き起こされる。
●溶血性尿毒症症候群(HUS)は溶血性貧血,血小板減少,急性腎不全の3徴候を呈する疾患であり,そのほぼ90%が乳幼児や小児に好発する志賀毒素産生大腸菌による下痢症に続発する典型的HUSである。下痢を伴わない非典型的HUS(aHUS)は全体の5〜10%程度認められ,その病因は補体制御因子や血管内皮細胞膜タンパクの遺伝子異常に起因することが判明している。
●TTPとHUSの両者は臨床症状が類似していることから,時に鑑別が困難な症例が散見された。しかし,現在ではADAMTS13酵素活性を測定することにより客観的に鑑別可能であり,TTPでは酵素活性が10%以下に著減するも,HUSではその多くが25%以上となっている。
●先天性TTP患者の治療は,ADAMTS13酵素の補充を目的とした新鮮凍結血漿(FFP)の輸注療法が有効である。具体的には血小板数を指標にして,FFP 5〜10mL/kgを2〜3週間ごとに定期投与することによってTTPの発症を予防していることが多い。後天性TTP患者の標準治療は,血漿交換療法に併用して免疫抑制療法としてステロイド療法が行われている。そして再発・難治性の症例に対してはリツキシマブ治療の有用性が報告されている。
●HUS発症の原因である志賀毒素産生大腸菌感染による出血性大腸炎に対しては,基本的に腹痛,血便の激しい症例は入院とし,補液にて水分および電解質のバランス是正を主体とした対症療法が基本となる。抗菌薬の投与は,感染初期を除いてはかえってHUS発症の危険性を上昇させる可能性が指摘されている。
●移植後血栓性微小血管症(TMA)の病態はVWF依存性血小板血栓形成の異常亢進であるが,後天性TTPとは異なり,血管内皮細胞障害によって発症するいまだ予後不良な疾患である。治療としては,VWFの機能亢進を抑制するADAMTS13と正常サイズのVWFを補充するFFP輸注が有効である。
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