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ARDS(acute respiratory distress syndrome)は,危険因子となり得るさまざまな原疾患に続発して発症する炎症性の肺疾患であり,血管透過性亢進に伴う肺水腫を特徴とする1,2)。このため,最終的な肺損傷に至る発症機序には共通する部分が多いものの,一方で,異なる病態生理学的基盤をもつ不均一な集団が1つの症候群に含まれることとなる。こうした集団の不均一性は,治療の反応性や予後の判定に少なからず影響を与えるものと推測される。実際に,原因となる疾患3〜13)やARDSの病理学的病期(発症からの経過)14〜16),ARDS発症のタイミング17〜20),肺損傷に至る病理学的背景の多様性21,22)などにより,治療成績や臨床予後が異なる可能性を示す報告が複数存在する。こうした患者特性の「ばらつき」は,あるサブグループで有効な治療法が,異なるサブグループでは効果が認められないといった治療効果の“ずれ”を生み,本来特定の集団に有効であるはずの治療法が無作為化比較試験randomized controlled trial(RCT)では否定される危険性をはらむ23)。このため,病理学的背景や画像所見,分子生物学的な診断所見,病態生理,あるいは呼吸パラメータなどが比較的均一となる病型にARDSを細分する試みは,病型に応じた治療効果を正しく判定する臨床試験を設計するうえで,特に重要であると思われる24)。
Summary
● ARDSの臨床定義には,病態の異なる不均一な集団が含まれる。
● ARDSは,先行する基礎疾患や発症機序,病理学的病期に基づき分類され,治療効果が異なる可能性がある。
● 一方で,複雑な患者背景と病理学的多様性をもち,必ずしも明確に区別できないことも多い。
● ARDSの臨床診断と病理学的診断との間には大きな乖離がある。
● 個別的な治療戦略のための客観的な指標に基づいた新たな分類の策定が期待される。
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