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ICU患者は疾患そのものによる高度な侵襲ストレスを受けているが,これに対する救命治療もまた,医原性の侵襲ストレスとして患者が受けることになるというジレンマが生じている。いずれの侵襲も,post-intensive care syndrome(PICS)の要因となり得るため,我々はできるかぎり有効かつ低侵襲の治療を行い,疾患・医原性両方の侵襲を減じることを心掛ける必要がある。しかし,重症患者においては,侵襲の高い医療行為が不可避なケースも多々存在する。
この侵襲ストレスによりストレス潰瘍が生じることが知られ,とりわけ出血を生じた場合は死亡率が上昇することも報告されており,現在ICUではストレス潰瘍予防としてプロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬といった胃酸分泌抑制薬が投与されることがルーチンとなっている。しかし,胃酸分泌抑制薬の使用は人工呼吸器関連肺炎をはじめとする感染症を増加させる懸念があり,コストに見合わないのではないかという批判もある。
そこで本稿では,ICUにおいて,どのストレス潰瘍予防薬がよいか,という議論よりも,ストレス潰瘍のリスクの妥当性と予防薬の使用を減じることが可能かに重きをおいて検証したい。
Summary
●ストレス潰瘍予防のガイドラインとしては,1998年に発表されたAmerican Society of Health-System Pharmacists(ASHP)ストレス潰瘍予防ガイドラインがあり,Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)においても,推奨されている。
●メタ解析による臨床的に重要な消化性潰瘍出血の予防効果はH2RAよりもPPIのほうが優れているが,近年のストレス潰瘍による出血の頻度は大きく低下しており,現在の頻度は明らかではなく,ストレス潰瘍予防薬の適応基準は再考すべき時期にきていると思われる。
●ストレス潰瘍予防薬には有害事象,特に肺炎をはじめとする感染症を引き起こすリスクがあり,これらのリスクを上回る有益性があるかの評価が重要である。
●適切な低侵襲治療によりストレス潰瘍リスクそのものを減じる,ICU退室後も漫然と投与を続けない,エビデンスの周知と意識変革を促すことで不適切なルーチン使用を減じる,などによりストレス潰瘍予防薬を減じることができるかもしれない。
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