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神経集中治療の目的は,二次性脳損傷をいかに予防し患者予後を改善させるかにある。このために,神経学的診察法とモニタリングを駆使し,的確に頭蓋内環境を把握することが重要である。そのなかでも頭蓋内圧intracranial pressure(ICP)モニタリングは神経集中治療モニタリングの基本手技であり,我が国および米国の頭部外傷管理ガイドライン1)でもその使用が推奨されている。
米国では重症頭部外傷におけるICPモニターの使用率が1995年には32%であったが,ガイドラインによる啓発により2005年には78%にまで上昇している1,2)。また,ICPモニターを使用した重症頭部外傷患者の急性期死亡率がICPモニター非使用群に比して有意に低かった3)という報告もある。一方,最新のRCTではICPモニタリングを併用した治療群と対照群で予後に差がなかった4)という報告もある。このように,ICPモニタリングはその有効性に依然議論の余地はあるものの,神経集中治療に携わる者にとって体得すべき知識であることは疑いない。
欧米に比して我が国ではICPモニタリングの施行率は低い。我が国の頭部外傷の治療・管理のスタンダードを記した「重症頭部外傷治療・管理のガイドライン」5)(以下,頭部外傷ガイドライン)は2000年,2006年と版を重ね,それらのなかでICPモニタリングが最も強い表現で推奨されているものの,2008年の日本頭部外傷データバンク(JNTDB)6)の報告では,重症頭部外傷患者におけるICPモニタリング施行率は全体の29.9%にすぎなかった。我が国のICPモニタリングの普及率の低さは,そのエビデンスの不明確さのみならず,どのようにICPモニターを駆使し,患者を管理・治療したらよいのか,依然明確な情報が乏しいのが要因の1つではないかと思われる。
本稿ではまずICP亢進の病態生理に触れ,さらに神経集中治療におけるICPモニタリングの適応やその方法,ICP亢進への対処法について解説する。また,現時点における治療・管理法で何がわかっていて何がわかっていないのかを具体的に言及したい。
Summary
●二次性脳損傷を予防するため,神経集中治療に携わる者は頭蓋内圧(ICP)モニタリングを是非体得すべきである。
●ICP亢進により,脳灌流圧(CPP)低下による脳虚血と脳ヘルニア・脳幹圧迫が起こる。
●ICPセンサーの種類や留置部位によりモニタリング値の信頼性,感染や合併症の差異があるため,それぞれの特徴を熟知すべきである。
●ICP亢進に対する治療は,逐次変化するCPP値を意識しつつ段階的に治療手段を強化するプロトコルを用いる。
●初期治療から手術,そして術後管理へとスムーズにつながる神経集中治療のためには,集中治療医,救急医,脳神経外科医が共通言語のもと,治療戦略を共有し,十分な意思疎通をはかることが重要である。
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