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鎮静の基本は不快感なく容易に覚醒できることであり,ICUにおける鎮静管理では「鎮静の基本は鎮痛にあり」といっても過言ではない。この考え方は,ICUにおける鎮静鎮痛方法に大きな変化をもたらす。すなわち,人工呼吸器管理の患者を鎮静する際には,鎮痛に目を向けることが非常に大切である1)。
かつてICUでは深い鎮静が好まれた。というのも,ICUでの不快な体験の記憶が,心的外傷後ストレス障害post-traumatic stress disorder(PTSD)を発症させると考えられていたからである2)。しかし,この考え方は現在では否定されつつあり,周囲の環境を理解することこそがPTSDの発症を抑制する3~6),という考えが主流になっている。
1998年にKollefら7)は,鎮静薬を持続的に投与する群と,間欠的に投与する群に分けて,さまざまなアウトカムを比較した。結果,間欠的投与群では,人工呼吸器管理期間の延長,ICU・院内の滞在期間の延長,再挿管率の上昇,臓器障害の発生頻度の上昇を認めた。しかし,この試験のあと,鎮静薬を持続投与しないプロトコルの利点が強調されるようになってくる。すなわち,毎日,鎮静薬を中断することによって,人工呼吸器管理期間やICU滞在期間が短縮したとする報告8,9)や,鎮痛薬をしっかり投与し,鎮静薬をまったく投与しないことにより,人工呼吸器管理期間が短縮したとする試験10)がある。これらの試験により,十分な鎮痛があれば,鎮静薬は必要ない可能性が示された。
深い鎮静は,精神的な副作用のほかにも,肺炎のリスクになる11),薬物性の肝機能障害が出現しやすい12),離脱症候群のリスクが上昇する13),神経系のアセスメントの難しさから頭部CTなどの検査回数が増える8),といった副作用が報告されている。また,ICU患者は,鎮静鎮痛薬以外にも多くの薬物を投与される可能性が高く,投与薬物はなるべく少なくしたい14)と考えるのは自然なことである。
このように,不必要な鎮静を避けるためにも,ICUでは良好な疼痛管理を行うことが非常に重要となる。疼痛管理により,周囲の環境を理解できるような鎮静を行うことができ,上述したさまざまな副作用を避けることが可能となる。
しかし,現実的には疼痛は十分に管理されているとは言い難い。例えば,オランダの術後患者1490例の調査15)では,急性疼痛管理のプロトコルが存在していたにもかかわらず,41%の患者が手術当日に中等度から重度の疼痛を訴えていた。また,米国の調査16)では,無作為に抽出した250例の患者の80%が術後に急性の疼痛を感じ,このうち86%が中等度から重度の疼痛を感じていたという。
急性期の術後疼痛管理チームが普及していない我が国で,どのような術後疼痛管理が行われているのか,はっきりしたデータはないが,本稿では良好な鎮痛を得るための方法を文献を交えて考察する。
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