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心臓は,①心房が収縮して,その後に心室が収縮する。また,②右室と左室は同時に収縮し,そして③心室の中隔と自由壁も同時に向かい合って収縮する。何を当たり前のことをと思われるかもしれないが,この3つのタイプの心臓の同期がうまくいかない病態が心不全を思いのほか悪化させていることが最近の画像診断技術の進歩でわかってきた。この病態を同期不全dyssynchronyと呼び,正常の刺激伝導系を介して心房や心室が順序通りに興奮せず,①心房-心室間,②左室-右室間,③心室内,で伝導障害が出現していることを意味する。
この同期不全の一番わかりやすい病態が,VVI(非生理的)ペーシングとDDD(生理的)ペーシングとの比較である。伝導障害に対して使用されるペースメーカのペーシングモード(表1)は,歴史的には非生理的ペーシングから,より生理的なペーシングへと移行してきた。しかし実は大規模臨床試験の結果から,両者の間で生命予後や心不全発症に差はないことが示されている。さらに,最も生理的なモードであるDDDRペーシングを行ったとしても,洞調律に比べて心不全による入院・死亡率が悪化することが示されている。現在ではペーシングモードそのものよりも,むしろ生理的ペーシング・非生理的ペーシングを問わず必須となる右室心尖部へのペーシングが同期不全をもたらし,心機能低下,心房細動の発生率上昇,および生命予後悪化へとつながることが問題となっている*1。
ここ数年,重症心不全症例における心室間同期不全に対する治療として心臓再同期療法cardiac resynchronization therapy(CRT)が導入され,QOL,心不全入院率,生命予後の改善効果が複数の大規模臨床試験で示されてきた*2。本稿ではこれらを踏まえて,今後の心不全治療に重要となってくるであろう同期不全の概念について概説する。同期不全の病態生理について,まず房室同期不全と心室内同期不全について説明し,続いて心室間同期不全について述べる。
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