昨日の患者
同期の桜
中川 国利
1
1仙台赤十字病院外科
pp.1583
発行日 2009年11月20日
Published Date 2009/11/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407102877
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- 文献概要
古来から日本人は桜に種々の想いを寄せることが多い.紀友則は「久方の光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ」,また西行法師は「願わくは花の下にて春死なむ その如月の望月のころ」と詠んだ.そして,私が主治医を務めたNさんも桜にまつわる思いを語ってこの世を去った.
Nさんは小学校に入学したときに,同級生と校庭の周囲を桜並木にすべく桜を植えた.支柱を立て,朝晩水をかけて桜の生長を見守った.そして,大きく繁った桜の下で鬼ごっこや縄跳びをして遊んだ.また,木陰で本を読み,時にまどろんだ.長じてNさんは母校の教師となった.桜とともに新入生を迎え,そして教え子らを送り出した.また,入学式や卒業式などの記念行事には桜並木を背景に写真を撮った.さらには桜の下で出征する兵士を見送り,そして白木の箱を迎えた.
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