特集 ARDS
8.ARDSに対する非人工呼吸療法,薬物療法を中心に:過去,現在,未来―(2)吸入NOとARDS
市瀬 史
1
Fumito ICHINOSE
1
1Massachusetts General Hospital麻酔科
pp.87-90
発行日 2009年1月1日
Published Date 2009/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3102100167
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
■NO吸入の薬理と生理
一酸化窒素nitric oxide(NO)は,室温では不安定な無臭・無色のガスとして存在する。NOとその酸化物(NO2,N2O4など)は,大気中の窒素が内燃機関,タバコの芯,雷などで部分的に酸化されることでも産生される。NOの化学については最近のレビュー1)を参照されたい。NOは,体内ではNO合成酵素により酸素とL-アルギニンよりL-シトルリンを副産物として生成される。吸入されたNOは,肺胞毛細管膜を急速に透過して肺血管平滑筋に到達する(図1)。
心血管系におけるNOの生理的効果の多くは,溶解性グアニレートシクラーゼsoluble guanylate cyclase(sGC)を活性化してサイクリックグアニン一燐酸cyclic guanine monophosphate(cGMP)を産生することにより発現する。平滑筋内でcGMPの濃度が上昇すると,cGMP-依存型プロテインキナーゼcGMP-dependent protein kinase(PKG)を介する機序により平滑筋が弛緩する。cGMPの生理作用はヌクレオチドホスホジエステラーゼphosphodiesterase(PDE)によりcGMPが加水分解されることにより制限される。現在確認されている11のPDEのうちPDE5はcGMPだけを特異的に分解し,肺,心臓,血管平滑筋に存在することが知られている2)。PDE5はcGMPに対して高い親和性を持ち,zaprinastやシルデナフィルなどのPDE阻害薬により選択的に阻害される。
Copyright © 2009, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.