症例検討 麻酔歴に問題がある患者のインフォームドコンセントと麻酔 3
術後に高熱を出した患者
悪性高熱の可能性はあるのか? より安全を期して
宮下 龍
1
,
山蔭 道明
1
MIYASHITA, Ryo
1
,
YAMAKAGE, Michiaki
1
1札幌医科大学医学部 麻酔科学講座
pp.992-996
発行日 2010年10月1日
Published Date 2010/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101048
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術後の発熱はなぜ起こるか
日々の術前診察のなかで,手術麻酔歴を聞くと「術後にかなり熱が出た」という話をしばしば耳にする。発熱の状況や程度の差はあれ,このようなときに麻酔科医が最も気にする病態として「悪性高熱」が思い浮かぶかもしれない。確か頻度はとても低いし,実際に見たこともないし,と思いながらも,発症すると致死率が高いことはご存知のとおりである。
一方で,術後の発熱の多くは,手術侵襲によるサイトカイン性炎症反応による体温調節中枢のセットポイント*1の上昇が考えられる。サイトカイン性炎症反応とは,手術侵襲により生じたサイトカインがストレス物質(ヒートショックプロテインなど)を誘発する発熱反応のことをいう(コラム1)。一般的に,全身麻酔覚醒後は抑制されていた視床下部の体温調節中枢が再度活動し始めるが,術後はサイトカインによりセットポイントがずれ,目標体温が高値に設定されてしまう。術後に発熱する場合のほとんどはこの理由による(非感染性発熱)。しばしば40℃前後の高熱をきたすこともある。今回の症例では,この機序による可能性も十分考えられよう。
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