徹底分析シリーズ 脳外科手術のControversies―2
術中,術後の脳保護はいかにすべきか?―“軽度低体温療法”vs“常温(37℃前後)”vs“薬物(麻酔薬,仙台カクテル)”
黒田 泰弘
1
Yasuhiro KURODA
1
1香川大学医学部 救急災害医学
pp.616-619
発行日 2009年7月1日
Published Date 2009/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101100688
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術中,術後の脳保護のために,軽度低体温療法therapeutic hypothermiaは有効なのだろうか。動物実験と異なり,臨床で手術中に軽度低体温療法の有効性を実感することは限りなく難しいと思われる。2005年にToddら1)は,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の手術中の軽度低体温療法に関する多施設大規模研究の結果を報告している。これはWFNSでグレードⅠ~Ⅲの患者1001例を対象に行われているが,目標体温は33℃(対照群36.5℃)であった。結果として,予後,転帰に有意差は得られず,軽度低体温療法群ではむしろ術後菌血症が多く認められている。この報告は,症例の選択に問題があり,ネガティブな結果になったと推定されているが,より重症なくも膜下出血患者に対しても軽度低体温療法の脳保護効果を期待することは難しいと考えられている。
軽度低体温療法の現況を把握するには,そして周術期に軽度低体温療法を行うかどうかを判断するには,一度周術期から離れて,軽度低体温療法の現況を概観する必要がある。現在,軽度低体温療法の適応がある病態は,無作為化比較試験(RCT)で効果が証明された心停止後脳症2,3)と,周産期脳虚血・低酸素症の新生児4)のみである。そのほかの疾患や病態では適応は明確ではなく,臨床治験レベルとなっている。
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