展望
人間の右心探索法の進歩と肺循環生理學の新知見
松田 幸次郞
1
1東北大學醫學部環境醫學(應用生理學)教室
pp.23-26
発行日 1949年3月25日
Published Date 1949/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905437
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心臓の働らきばえは何と云つても分時搏出量に在るから人間に就てのこの値を知る事は應用生理學に課せられた最重要問題の一つである.此はHarveyの昔以來今に到る迄變りは無い.隨つて古くより之が常に生理學者や臨牀家の研究對象とされて來たが尠くとも人間に關しては肺循環を利用するFickの原理に依るものが中心であらう.之は肺に於けるガス交換量を肺を通過した血液の動靜脈ガス含有量の差で除して心搏出量を求める原理である.この原理自體は明白であるが實際に當つて肺がガス交換量と動脈血ガス含有量の測定は至極容易なるに反して肺に入り來つた血液,即ち全身より右心に歸來して混合した所謂混合靜脈血は之を採取容易な表在性靜脈の血液を以て代へる事が出來ない.この混合静脈血を如何にして安全に採取するかに問題の焦點が在る.隨つて之を知る爲に無數の方法が案出され,何れも相當の效果を擧げてゐる事は周知の事實である.然し何れも要するに間接的であつて單刀直入に現に肺動脈内の血液を採取するのではない.生きた人間の右心や肺動脈から採血する等の危險極まるものだとは誰しも思ふ事であらう.
然し世界は廣いから稀に勇敢な人があるもので,既に1930年に直接に右心から採血を企てた者がある.一は胸骨右縁に沿い右心房を穿刺する方法で往々出血の危險がある.
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