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あとがき
松田 道行
pp.190
発行日 2018年4月15日
Published Date 2018/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200789
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先月,Ursula Le Guinが亡くなった。彼女の描く宇宙の世界は,人間(知的生命体)の多様性を受け入れる寛容性の重要性を語るとともに,科学のもたらす未来に胸を躍らせるものがあった。わたしが研究者になったのは彼女の本の影響が大きいのである。とはいえ,宇宙で暮らすことなど学生の頃は夢物語と思っていたが,近年,にわかに現実味を帯び始めている。そうなると今度は逆に,宇宙で暮らすことがいかに難しい挑戦であるかもまざまざと見えてくる。本特集で取り上げられている微小重力,宇宙放射線,精神ストレスの三大ストレス以外にも,はるかに多くの困難が待ち受けているだろう。そもそも,もっとも近い恒星まで4.2光年かかる。気が遠くなるような旅だ。乾燥状態のネムリユスリカの幼虫はアフリカの酷暑に耐えるのみならず宇宙の極限環境にも何年も耐えるそうだ。「2100年宇宙の旅」にはネムリユスリカを模倣した乾燥人間が乗っているのではなかろうか。一方,宇宙ステーションの微小重力を使った骨研究や閉鎖空間における人間関係の研究は,寝たきり患者の骨粗鬆や実社会でのストレス対応など,直近の課題解決にヒントを与えることも強調すべきだろう。「宇宙」という少年心をくすぐるテーマをご編集いただいた瀬原淳子先生,ご執筆いただいた,宇宙飛行士である古川聡先生を始めとする宇宙生物学最前線の方々,ユニークな動物を使った研究を紹介していただいた奥田先生,平崎先生,南沢先生,岡部先生にあつくお礼申し上げたい。(松田道行)
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