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あとがき
松田 道行
pp.384
発行日 2015年8月15日
Published Date 2015/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200196
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“今そこにある危機”,感染症を語るに最も適した言葉でしょう。アフリカのエボラ出血熱はようやく収まりつつありますが,隣国の韓国ではMERSコロナウイルスの封じ込めに躍起です。検疫(Quarantine)という単語はベネチアが海の支配者であったころ,40日間,船を港外に留め置いたことに由来するそうです。今は数時間で海外に行け,毎年1,000万人超の観光客が海外から来る時代,どんな感染症がいつわが国に来るかは予測不能です。東京とて今年もいつデングウイルス感染者が出るか油断はできません。デング出血熱は二度目の感染で発症するのですから,むしろ怖いのは今年でしょう。また,重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を初めとするダニ媒介性感染症のほぼ半数は,ここ10年間に見つかってきた新興感染症です。健康的に見える森林浴に潜む危険を知らねばなりません。一方,30年以上も前に竣工しながら住民の反対で稼働することができない二つのバイオセーフティーレベル4施設は,国民の間でリスクをどのように分担すべきかという原発や米軍基地にも通ずる問題を提起しています。感染症の本を久々に読んだのですが,驚くほど研究が進んでいることを実感し,政策的な問題点も考えさせられ,知的好奇心を十分に満たしてくれる特集でした。私事になりますが,学生時代につつが虫病の研究で著明な福島市の大原綜合病院を見学させていただいたことがあります。日本紅斑熱を発見された馬原先生の病院にその標本が引き継がれ,そして研究が続けられていることを知り,地方の病院で地道に行われているわが国の医学研究の強さを再認識しました。
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