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あとがき
松田 道行
pp.615
発行日 2018年12月15日
Published Date 2018/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200933
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発見した分子や紡ぎだした概念に新しい名前を付けることは生命科学の本質である。本特集でも細胞内オルガネラ間のコミュニケーションに関わる数多くの新規分子や新規機能,そして「小胞体ストレス」などの日本発の概念が紹介され,「名前をつける喜び」こそが生物学の推進力だと感じる。一方,自分はといえば増え続ける膨大な情報量の前に途方に暮れている。本文は細胞膜関連Gタンパク質の会議直後にワシントンで書いているのだが,自分のノートをめくると初耳の単語の満載である。しかし,今や幸いなことに知らない名前や概念はネットで簡単に調べられ,あとから何とか理解できる。つまり,これからの生命科学者に求められるのは博学であることではなく,限られた容量の記憶に必要な情報を随時出し入れし,それを使って正解を導きだす才能なのである。
昨年,日本学術会議の分科会(中野明彦委員長)は,高校生物で教える生物の重要単語を現在の約2,000から約500へと減らすべしという提言をした。高校生の生物離れの理由が重要単語の数の多さによるのかとか,単語を使わずにどうやって教えるのだとか,知識を問わない生物学の能力を測る入試問題など作れるのかとか,議論百出は確実であろうが,私はタイムリーな提言であったと思う。
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