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パリで開催されているInternational Curie Course on “cell biology and cancer”に参加しています。私以外の講師の多くはInstitute Curieのラボヘッドですが,その話の多くは,本号で扱っているメカノバイオロジーの話でした。発生の形づくりがメカノバイオロジーの範疇に入るのは当然としても,「がん細胞を押しつぶして核を変形させたらどうなるか」といった話(これは面白い! DNAに傷が入って転移しやすくなるのです)や,組織の硬さががん細胞の幹細胞性を規定するといった力学の話ががんの話題でも普通に出てきました。物理出身というラボヘッドも決して珍しくありません。そして,PDMSで作った人工流路の研究をだれもが当たり前のようにやっていることにも驚きました。Marie Curieの名を冠する研究所だからということではないと思うのですが,彼我の差に愕然とします。ちなみにInstitute CurieはドイツのMax-Planck研究所と同様に政府の研究機関で,日本の理研に近いようです。そういえば,オランダのがん研究所もAntonie van Leeuwenhoek研究所という名前でした。日本では個人の業績は隠すのが美徳とされ,個人名を付けた組織もほとんどありませんが,そろそろ変えてもいいかもしれません(鈴木梅太郎研究所とか)。
なお,本号ではCRISPR/Cas9を使った遺伝子変異導入の最速の方法と,系統進化研究で古くからつかわれているナメクジウオの2つの話題も扱っていますが,速さを競う研究と悠久の時の流れを探る研究と対照的です。分野も時間軸も,さまざまなものがあるのが研究だと改めて感じるところです。
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