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あとがき
松田 道行
pp.367
発行日 2021年8月15日
Published Date 2021/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425201388
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新興再興感染症という言葉は筆者がまだ国立感染症研究所にいた2,30年前にできたように記憶します。米国の研究者のダニ脳炎の講演を聞いた時だったか,人間が森林開発を続ける限り新興感染症はなくならないのだろうかと質問したことがありました。彼の答えはYES。不幸にしてその予言は的中し,ついにはCOVID-19パンデミックを引き起こすに至りました。ただ,うれしい誤算だったことは科学の進歩もすさまじく,新型ウイルスに対する方策が瞬く間に確立できるようになっていたことです。アフリカのサルから広がったHIVウイルスに対する治療薬ができるまで約10年でした。一般の薬剤開発は20年,ウイルスに対する薬は無理と信じられていたことを考えれば驚異的速さでした。SARS-CoV-2に至っては,中国で発見されてからワクチン開発までなんと1年もかかっていません。しかし,いま出回っているワクチンの多くが,mRNAやウイルスベクターという前例のない,そう簡単には認可されるはずもないタイプのワクチンであったことは,今後の日本を考えるうえで極めて重要です。失敗を恐れるがゆえにベンチャー企業がなかなか育たないという風土をなんとかしなければいけません。今度の災厄が,日本人の精神構造をも変えてくれること期待します。
最後になりましたが,COVID-19に関わる業務で多忙中のところを編集いただいた長谷川先生ならびにご寄稿いただいた諸先生方に厚くお礼申し上げます。
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