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選択的スプライシングでは,異なるエクソンの組み合わせにより一つの遺伝子から様々な成熟RNA(mRNA)が生じる。この過程は,限られた遺伝子数から莫大な蛋白質群(プロテオーム)を生み出す重要なプロセスである。ヒトゲノム計画から10年を経た今,ヒトにおいて95%以上の遺伝子が選択的スプライシングを受けると報告されており1,2),その分子ネットワーク解明が急がれる。様々な遺伝性疾患において,ゲノムの遺伝子変異によりこの選択的スプライシングに異常が生じ,病態との関連が言われている。
選択的スプライシングの操作には,化合物とアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide;AON)による二つの方法が研究されている。化合物による医薬品の創製は,古くはマラリア治療薬のメチレンブルーが知られている(1891年)が3),スプライシング異常を示す病気を標的とした最初の化合物の試みは,2001年の脊髄性筋萎縮症における酪酸ナトリウム,と比較的新しい4)。AONによる最初の試みは,1993年のサラセミアに対するものである5)。近年,RNA interference(RNAi)による医薬品開発が飛躍的に進んでおり,mRNAを標的にすることにより過剰な蛋白質を抑えるAON(ホモ接合型家族性高コレステロール血症に対して)が最近,米国食品医薬品局(food and drug administration;FDA)の承認を受けた6)。しかし,多くの遺伝病では遺伝子変異の結果,蛋白質の欠失が生じる。AONにより,このような蛋白質の欠失を是正するには,RNAiを惹起しないスプライス・スイッチAONを用い,選択的スプライシングにより遺伝子変異を回避する方法をとる必要がある7)。スプライス・スイッチAONの配列決定や化学修飾のデザインは難しく,毒性を考慮せずに患者へ投与することは現状では不可能である8)。本稿では,選択的スプライシングに影響を与える化合物が標的とする既知のスプライシング経路を挙げ,スクリーニング法,治療への可能性,異常スプライシングと化合物が作用する標的同定による分子ネットワーク解明の可能性について紹介したい。
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