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細胞は分子で構成された最も高度な構造であり,細胞内・外では分子による時空間的な情報伝達により機能制御が行われている。これら情報伝達を分子レベルで理解することは,難病治療・再生医療といった,人間の生活活動を豊かにするため必要不可欠な研究課題に,根本的かつ直接的に関連付けられる。一般に,分子レベルで細胞を理解しようとする試みは,分子生物学という学問により行われてきた(ここでいう分子は主にタンパク質である)。しかしながら,近年の学際融合的研究により分野間の境界は消滅しつつあり,材料科学者も積極的に細胞を用いた研究に取り組むことが可能になっている。
様々な情報伝達物質の中でも最も小さい分子と考えられる一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)が近年注目を集めている1,2)。この二原子分子は室温・常圧でガス状であり,拡散速度が非常に大きい。一方で,反応性が高いため半減期は短く(NOは数秒間,COは数分間),高濃度になると毒性を有する。生体内では,基となる分子(NOはL-アルギニン,COはヘム)を必要に応じて酵素が分解することで,NOやCOを生産し利用している。特にNOに関しては研究が盛んに行われており,一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase;NOS)は様々な細胞に存在していることがわかっている。神経細胞に発現しているnNOS(neuronal NOS)は細胞間情報伝達に,内皮細胞に発現しているeNOS(endothelial NOS)は血管拡張作用に,またエンドトキシンやサイトカインによって誘導されるiNOS(inducible NOS)は免疫系制御に関係しているとされている。生物学的アプローチとしては,これらNOSを活性化や阻害することで内因性NOを変化させる手法が取られているが,一方で,化学的アプローチを用いて外因性NOを系中に生成させることができれば,その生理作用を解明する研究は飛躍的に容易になる。実際に,合成化学的手法により外因性NOを放出可能な分子(NOドナー化合物)は,NOの関連する様々な生物学研究に応用されている。本稿では,分子化学を駆使したNOドナー化合物,そのNOドナー化合物を固体材料化したNOドナー材料,そして放出を光刺激で制御可能な光制御型NOドナー化合物とその材料化,これら材料のin vitro,in vivoにおける生物応用研究を概説する。
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