増大特集 生命動態システム科学
Ⅱ.数理生物学
6.組織・多細胞社会
(4)自己組織化現象
中田 聡
1
Nakata Satoshi
1
1広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 生命動態システム科学推進拠点事業 核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点
pp.476-477
発行日 2014年10月15日
Published Date 2014/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425200047
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■生命体における自己組織化現象
自己組織化は生命活動を営むうえで不可欠な現象である。I. Prigogineの提案した“散逸構造”は自己組織化というエントロピー減少の現象を起こすために,エネルギーを散逸している1)。それに対して,ある状態が巨視的に変化する場合,系の初期条件は“非平衡”でなくてはならず,すべての現象は初期の非平衡状態から平衡状態へ進行する。これは圧力差で駆動されるピストン,濃度差で駆動される電池,温度差で駆動される熱機関で共通する点である。加えて閉鎖系であれば,系は平衡に達して現象が終了するため,持続的に現象を駆動させるには“非平衡開放系”でなくてはならない。例えば自動車ではガソリンを燃焼させて得られた温度差でピストンを駆動させるが,燃焼で得られた熱やCO2を系外に排出することで走り続ける。
ここで,ガソリンが減っても供給すれば自動車は走り続けるが,その司令塔はあくまでも自動車ではなく運転手である。それに対して生物系は系自身が意識的にあるいは無意識に現象を制御している点が無生物系の自動車とは決定的に異なる。一方,生命現象の基本は細胞であり,細胞膜で完全に内外を遮断するのではなく,特定物質の流出・流入を制御し,反応と揺らぎを通して分裂や分化する。つまり,細胞または核の対称性が崩壊し自己組織化する。では対称性を崩壊し,更に異方性が増す自己組織化の機構は“揺らぎ”だけで説明できるのであろうか?
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