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ヒトを含む高等動物はいわゆる五感を介して外界からの情報を受容し,それに基づいて意識の世界を構築している。これら多様な入力情報は,脳においてそれがその個体にとってどのような意味を持つのかという情報の質を判断され,情動および行動の指令として出力される。これまで分子生物学者は,外界情報の受容とその伝達,および回路構築や行動判断の解析のために,これらのプロセスに関わる分子の同定やその遺伝子のノックアウトを行ってきた。その基礎となっているのは,one gene-one enzyme説1)に代表される分子遺伝学の基本概念で,一つの遺伝子が一つのタンパク質,さらには対応する機能に結びつく,すなわち特定の遺伝子の変異体の解析によってその機能を明らかにすることができるという立場であった。
この考え方は,分子生物学の研究が原核生物から真核生物へと移行した遺伝子クローニングの時代を経て,高等生物の複雑系,例えば免疫系や神経系のconditional knockoutを用いた解析の時代に至るまで,分子生物学者に不動の原則として受け継がれてきた。但しここには,解析しようとする機能が特定の遺伝子に対応している,すなわち個々の遺伝子が高次機能の単位となりうるという一つの仮定があった。確かに,神経系におけるチャネルや受容体,投射やシグナル伝達に関わる主要因子のノックアウト解析は一定の成果を挙げてきたが,こと情動や行動となるとそう簡単ではない。上記の重要遺伝子をノックアウトすれば記憶や行動に様々な障害が現れはするが,そのlogicsの解明にはもう一工夫する必要がある。筆者らは,個々の因子やその遺伝子を情動や行動解析の単位とはせず,特定の神経回路や脳の領野を標的とし遺伝学的手法で操作することによって,行動を支配するシステムの理解を試みた。
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