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ヒトゲノムプロジェクトの進展により,種々の生物のゲノム塩基配列は明らかとなったが,塩基配列のみでは遺伝子およびコード領域以外の部分がどのような機能を持っているのか推定すらできないし,また遺伝子自身の機能に関する情報も不十分である.このため全長cDNA配列の決定,DNAマイクロアレイによる発現パターンの解析,タンパク質の構造解析,タンパク質に対する抗体作製などの機能解析系が必要であると言われている.しかし,これらは重要ではあるが,あくまで機能を同定するための状況証拠を提供するにすぎないと見るべきである.具体例を1つ挙げれば,Cbfa1はリンパ球で発現する遺伝子の転写因子として発見されたが,その破壊マウスでは骨形成が見られず,骨形成のマスター遺伝子であることがわかった.このことは構造や発現パターンからだけでは必ずしも機能は推測できないことを示唆している.そこで遺伝子改変マウスを用いたin vivo 解析の重要性が再認識され,欧米でノックアウトマウスプロジェクトが始まり,合計すれば年間約40億円に達する金額が投じられることとなった.その内容は,遺伝子トラップ法や相同組換え法を用いてほぼ網羅的にノックアウトESクローンを取るプロジェクトであるが,当面は129系統マウス由来のES細胞を用い,やがて確立されればC57BL/6マウス由来のES細胞を用いて行うというものである.筆者らは網羅的遺伝子破壊を目指して可変型遺伝子トラップ法を開発した.この方法により,第一段階で完全破壊が,第二段階でトラップベクター内のマーカー遺伝子を別の遺伝子で置換,第三段階で条件的遺伝子破壊が可能となった.やがて遺伝子破壊されたES細胞が全世界に配られ,遺伝子破壊マウスが多量に作製され,保存されるときが来る.熊本大学生命資源研究支援センターでは,世界の主要なリソースセンターが参加し,保存と供給の支援を行うFIMRE(Federation of International Mouse Resources)にも創立メンバーとして参加し,またアジアにおけるミュータジェネシスとリソースセンターの連合体であるAMMRA(Asian Mouse Mutagenesisand Reource Association)も立ち上げ,今後の対応も視野に入れた活動を行っている.
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