- 有料閲覧
- 文献概要
近年,タンパク分解の研究は生物学の前面に登場し,多くの人が関心を寄せ始めている。これはユビキチンプロテアソーム系が発見され,この系がサイクリン分解による細胞周期などの生命事象に関わる制御に,重要な役割を演じていることが明らかとなったことが引き金となっている。一方,細胞内タンパク質分解のもう一つの重要な経路であるリソソーム系は,半世紀以上前にC. de Duveが細胞分画法でリソソームを発見したことによって,その研究がスタートした。その後,電子顕微鏡による微細形態観察により,リソソームにおける分解様式としてのオートファジーという概念が定式化されて,すでに50年近くが経過している。これまでも多くの研究者が細胞内分解コンパートメントの機能とその生理的意義に関して興味をもって参入してきたが,研究の進展は遅々としていた。その理由はタンパク合成の研究に比較して,タンパク分解の研究,とりわけリソソームにおける非選択的な分解は,リソソームが複雑かつ動的なオルガネラであること,オートファジーの生化学的な定量法が欠落していたことに起因していると思われる。
リソソーム/液胞における分解に関して,外界の異物を分解するエンドサイトーシスとファゴサイトーシスをヘテロファジーと呼ぶのに対応して,自己の構成成分の分解過程はオートファジー,自食作用と名付けられた。オートファジーは一般的には非選択的で細胞質成分,オルガネラのバルクな分解を担っていると考えられている。ユビキチン経路では分解すべきタンパク質を厳密に識別するために,多数のリガーゼによるユビキチン化の過程と,引き続くユビキチン化タンパク質のプロテアソームによる分解の両方の過程に多量のATPが必要とされる。これに反してリソソーム/液胞でのタンパク分解は,栄養飢餓のような環境に応答して短時間に大規模にタンパク質を処理する機構として優れた経路である。
Copyright © 2003, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.